喜歌劇「モスクワ市チェリョームシキ地区」作品105/105a

ロジェストヴェンスキー指揮/ハーグ・レジデンティ管弦楽団

バトゥルキン(Br),ゲラコヴァ(MS)

1997.06.30-07.03 Chandos

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全曲版。チェリョームシキ地区とは、当時ソ連の都市計画の一環で作られたというモスクワの高級住宅地であり、曲名は言わば「横浜市みなとみらい」のようなものなのだろうか。高級マンションに入居した人々の暮らしと腐敗官僚の風刺を描いたオペレッタ。作曲時期は交響曲で言えば11番と同時期で、雪解け後。大作曲家として世界的な名声を得ていたショスタコーヴィチが手掛けた唯一のオペレッタであり、歌劇分野では「鼻」と「ムツェンスク郡のマクベス夫人(カテリーナ・イズマイロヴァ)」に続く完成した作品。当盤はロジェストヴェンスキーによる貴重な全曲版で、伴奏は管弦楽以外にも要所にエンジン音などの効果音の録音が入り、軽快なサウンドと相俟ってまるでミュージカルのよう。この明るさとエネルギーは、ディズニー映画のサントラにも通ずる面白さがある。ロジェヴェンとハーグ・レジデンティ管は13番で名録音を残しているが、当盤も素晴らしい。濃密で一貫した、全曲を通してのドラマを感じることができる。映画音楽やバレエ音楽からあちこち引用されているが、交響曲第11番と同時期にこういうオペレッタを作ってしまうショスタコーヴィチの胆力と才能にはますます惚れ込むばかりだ。

シャイー指揮/フィラデルフィア管弦楽団

1995.12.07,09 Decca

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組曲版。歌唱を管弦楽に置き換えた4曲。モスクワ疾走・ワルツ・ダンス・バレエの4曲から成る。チェリョームシキといえば当盤であろうという、まさに決定盤。フィラデルフィア管の煌めくような明るい音色と推進力、素晴らしい技術によって極上のエンターテイメントに仕上がっている。「モスクワ疾走」を大音量でリピートしながらドライブしたい一枚である。ワルツもショスタコ節全開で、あまりワルツ作曲家としては認識されないショスタコーヴィチだが、ぜひこの濃密なショスタコーヴィチのワルツの世界を味わってもらいたい。それにしても「ダンス・アルバム」と名付けられたシャイーのこのコンセプト・アルバムは、社交ダンスっぽいジャケットからはまるで想像もできない鼻血噴出の怒涛の選曲である。

スローン指揮/ベルリン放送交響楽団

2004.09.28-10.02 Capriccio

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組曲版。チェリョームシキは我が国ではほとんど知名度がなく、2000年にアマチュア・オーケストラのオーケストラ・ダスビダーニャが交響曲第4番の前プロで演奏・録音しているが(日本初演)、近年では吹奏楽編曲で親しまれているようだ。まさかこの曲をSACDで聴けるとは!という当盤、深みのある録音で手堅く綺麗に構築されている。ドラマチックな内容で、映画のサントラのようなわかりやすい表現。無理のないテンポで、実に丁寧に仕上がっている。ヒステリックな情景は浮かばない。