歌劇「鼻」作品15/15a

ロジェストヴェンスキー指揮/モスクワ室内歌劇場管弦楽団

アキモフ(Bs),ロモノソフ(T)

1975 BMG/Melodiya

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ショスタコーヴィチはその生涯で完成させた歌劇は「鼻」と「ムツェンスク郡のマクベス夫人(カテリーナ・イズマイロヴァ)」の2曲。「鼻」は1927-28年に作曲された初期の作品。ゴーゴリの短編小説を原作とした風刺的な内容であり、若きショスタコーヴィチの意欲的かつ実験的な構成が見られる。そもそも物語が特異なもので、帝政ロシア時代のペテルブルクを舞台に、ある日、突然、鼻を失った文官コワリョフと、その分離した「鼻」を中心としたドタバタ劇が繰り広げられる。抒情的な感傷的なアリアなど当然ない(一方、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』のスメルジャコフの詩が引用されたアリアがある)。鋭いサウンドが魅力的な現代的なオペラとなっている。ロジェストヴェンスキーはポクロフスキー演出のもとに当オペラを知らしめた立役者だと思うが、当盤は実に冴えた演奏で録音も良い。オーケストラはザクザクと歯切れの良い鳴りで、ある種のチープさと現代的な鋭さが融合した独特の魅力が感じられる。編成的には分厚くはないのに打楽器は多彩で、初期に見られるトム・トムやフレクサトーンの使い方が面白い。有名な第1幕の間奏曲は打楽器のみで演奏され、あまり録音の多くない同曲の中でも個性が発揮されるところ。個人的な体験では、2005年の7月、新国立劇場で行われたポクロフスキー演出によるモスクワ室内歌劇場管弦楽団、アキモフ主演、アグロンスキー指揮による来日公演を観ることができた。軽妙洒脱で実に現代的なオペラなのである。若きショスタコーヴィチの才気にあふれた、そしてロジェストヴェンスキーやポクロフスキーによって作り上げられていった名作である。ハピネット・ミュージックから出版されたDVD『ソヴィエト・エコーズ Vol.2 特権と圧力』では、指揮者と息子がプカプカとタバコを吹かしながら、作曲者と楽しそうにリハーサルに臨んでいる当時の貴重なカラー映像を見ることができる。

ロジェストヴェンスキー指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

インドラーク(Br),ロブル(T)

1978.01/Live Praga

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組曲版。序曲・コワリョフのアリア・第1幕の間奏曲・第2幕の間奏曲・イワンの歌・コワリョフの独白・ギャロップから成る7曲。コワリョフのアリアは、第5場「新聞社の一室」でコワリョフが鼻を探してもらうよう泣きながら懇願する場面。二つの間奏曲のあとは、第6場「コワリョフの家」から、下男イワンがバラライカを引きながら『カラマーゾフの兄弟』の詩を歌う場面、そして帰宅したコワリョフが鼻を失ったことを嘆くモノローグと続く。最終曲のギャロップは、第3場の終わりに配置されており、第3場と第4場の間奏曲と言ってもいいオーケストラ曲。ショスタコーヴィチらしい木琴の独奏に始まるドンチャン騒ぎの慌ただしい曲想が楽しい。さて、当盤はロジェストヴェンスキーとチェコ・フィルによるライブ録音とのことだが、他に異盤がなく、プラハなのでそのまま額面どおりに信じていいものか不明な一枚。随分と取っ散らかった演奏なのだが、それでも力業で聴かせてしまうような魅力がある。

M.ユロフスキー指揮/ケルンWDR交響楽団

スレイマノフ(Bs),カサチュク(T)

1996.03.06-08.06 Capriccio

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組曲版。実のところ組曲版はロジェヴェンとユロフスキーしか聴いたことがなく、聴き比べの機会に乏しいが、明らかにロジェヴェンとは異なるアプローチで、生真面目で端正な造形が心地良い。打楽器アンサンブルの第1幕の間奏曲、そしてバラライカが面白い「イワンの歌」が実に丁寧に演奏されており、堅実で美麗。一方でパワー不足とも灰汁がないとも言え、もの足りなさも拭えない。