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ヴァイオリン協奏曲第2番 嬰ハ短調 作品129

スラドコフスキー指揮 タタールスタン国立交響楽団

ミリューコフ(Vn) 2016 MELODIYA

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スラドコフスキーという指揮者との出会いは、このショスタコーヴィチ協奏曲全集であったが、正直に申し上げれば、それまでは聴いたことがなかった。スラドコフスキーも、タタールスタン国立響も。タタールスタンがソビエト連邦の構成国ということはわかるものの、2016年、ショスタコーヴィチ生誕110周年のこの年に交響曲全曲、協奏曲全曲をセッション録音したとは!!しかもメロディヤ!録音データには2016としかないので、詳細は不明だが、これはとてもセンセーショナルな出来事だと思われる。協奏曲全集のソリストはそれぞれ異なり6名、チャイコフスキー国際コンクールの入賞者とのこと。若手の起用は素晴らしい。Vn協2番は、オイストラフがロジェヴェン、コンドラシン、スヴェトラーノフとそれぞれ名盤を残しており、当時のエネルギーに満ちた他に代え難い感動があるが、現代の若手奏者による演奏も好きだ。Vn協2番は、交響曲13番と14番の間、協奏曲では最後の作品。ショスタコーヴィチ晩年の傑作であるが、現代的な響きが似合うのかもしれない。旧ソビエト勢の演奏家たちによる灰汁の強さはないものの、当盤のソリストとオーケストラのバランスが私の好みにぴったりで、やはりトム・トムが素晴らしい。ロジェヴェン盤のような爆裂感はないが、その存在感は圧倒的だ。絶妙なバランスでヴァイオリンとティンパニ、トム・トムが掛け合う様は、まさに感動体験である。質の良いセッション録音で、同じ指揮者とオーケストラが短い期間で撮った6曲の協奏曲全集、という点でも価値が高い。6曲を作曲順に聴いてみても面白い。いや、むしろスラドコフスキーの交響曲全集も混ぜて、15+6曲を全て作曲順に聴いてもよいか。こうした体験はスラドコススキーでしかできないだろう。

交響曲第15番 イ長調 作品141番

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2019.02.12~15 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンク指揮によるショスタコーヴィチ交響曲全集がついに完結。2015年に6番を収録したところから始まり、2019年にこの15番をもって全ての収録が終わった。最後に15番を持ってきたところ、そこに意味を見出したい。この全集の全てが詰まった一枚と言える。全15曲の中で最も充実し、ミヒャエルの良い部分が全て表された素晴らしい演奏である。今回、当全集を聴くに当たって久々に一人の指揮者で1番から15番まで通しで聴いたが、「ショスタコーヴィチの世界」を令和のこの時代に再現してくれたことに感謝。やはり音楽は感動と共にある。初めてコンドラシンの全集を聴いたときの感動を思い出した。作曲家の書いたスコアを現実の世に顕すのは指揮者でありオーケストラである。指揮者とオーケストラへの最大限の敬意と共に、このミヒャエルの15番の素晴らしさを伝えたい。15番に関しては、父クルト・ザンデルリンク、ロストロポーヴィチ、ムラヴィンスキー、そして作曲家の息子マクシム・ショスタコーヴィチと、素晴らしい名演奏が残っているが、私自身のこだわりというか、打楽器や金管の偏った好みもあるのだと思うが、ロジェストヴェンスキー盤をベストと推している。このミヒャエル盤を一番上に持っていくか、とても悩んだ(そもそも音盤に順位を付けること自体が無意味なのだ)。弦楽器の軋むような濃密な響きは、我が家のリビングに設置されたオーディオがとても良い仕事をしてくれて、部屋全体がホールのように鳴り響き、みしみしと重い圧力を聴かせてくれた。木管楽器の各ソロも素晴らしいし、ショスタコーヴィチ特有のキンキンと頭に届く響きと、もったりと地獄の底から何かが沸き上がるような不気味さを兼ね備えている。そして金管と打楽器、ブラボーである。1番からようやくここに辿り着き、この響きに到達したという感がある。時折バランスを破って見せたり、引っ込んでみたり。ミヒャエルの全集全般にバランスの良さが挙げられるが、最も危なっかしいところでバランスを保っているのが当盤。打楽器は、スネアとトライアングルが良いことは全集全てに言えることだが、ティンパニと大太鼓の何と素晴らしいことか。そしてトム・トム。トムとスネアのバランスも良いしピッチも良い。スネア・ドラム、テナー・ドラム、トム・トム、と多彩な小型の皮膜打楽器の活躍が楽しい。それから15番と言えば、もはや「鍵盤打楽器の為の協奏曲」と言っても過言ではない、シロフォン(木琴)、グロッケン(鉄琴)、そしてヴィブラフォン(電気モーターによる共振機能付きの鉄琴)。加えてチェレスタ。面目躍如であり、存在感にあふれる。15番は打楽器奏者にとって非常に難易度の高い曲であり、それは個人の技量よりも打楽器パート内でのアンサンブルに重視されたスコアによる。交響曲第4番やチェロ協奏曲第2番から引用される、打楽器による「時の刻み」はまさに。当盤の「時の刻み」の感動的なことといったら!この15番を聴くために全集が存在していると言ってもいいほど。1番から聴き続け15番に辿り着く、という「ショスタコーヴィチの世界」に入ることのできる全集。短い期間によるセッション録音で、実に濃密。ブレのない「世界」がここにある。15番まで聴き終えてしまった寂しさもある。このあとは、ツヴェターエヴァ、ミケランジェロ、レビャートキン、そしてヴィオラ・ソナタを聴こうかな、という気分になる。

交響曲第14番 ト短調 作品135 (死者の歌)

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

パスティルチャク(S) イヴァシュチェンコ(Bs)

2019.01.12~18 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンクの14番。期待通りの渋くて深みのある演奏。14番はバルシャイ、ロストロポーヴィチを筆頭に、もはや「専門指揮者」がいるかのような状態だが、それら超名演に切り込む一枚。クルレンツィスの独特な個性は一興だが、当ミヒャエル盤も必聴である。もはや西側・東側、というカテゴリもないオーケストラの中で、ドレスデン・フィルのこの渋い響きの何と素晴らしいことか。13番に続き、やはりオケと独唱のバランスが良い(私はこのバランスが好みです)。しなるような弦楽器の鳴りに、打楽器の好演。ショスタコーヴィチの後期の作品に目立つトム・トムなどの打楽器の活躍が小気味良い。そして11楽章、バルシャイの69年ライヴ盤と同様に、ラストにトム・トムが追加されている!しかも洗練されている。セッション録音で追加トムとは。このトムが好きなのです。

交響曲第13番 変ロ短調 作品113 「バビ・ヤール」

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

ペトレンコ(Bs) 2018.02.10-14 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンクの13番、素晴らしい響き!改装したドレスデン・フィルの本拠地「クルトゥーアパラスト」のサウンドを楽しむことができる素晴らしい録音。演奏もとても充実しており、たこさん五つ付けようか悩んだのだが、13番にはライバルとなる名盤が多く、当盤が深みのある豊かな響きとバランスで優れているものの、個性豊かなソビエト勢の指揮者たちと比べると、順位を付けることに悩む(というより、順位付けの意味のなさも感じる)。オーケストラとバスのバランスも、個人的にはこのぐらいが好き。実際にコンサートホールでのオーケストラとバス独唱のバランス作りは難しいところがあるし、この曲に限らず、不自然なまでに独唱が切り取られて前面に出ている録音はあまり好みではない。この13番、ミヒャエル全集の中でも金管や打楽器の音像がより明確で魅力的。ピアノからフォルテまでよく拾っているし、打楽器の細かな芸も近くに聴こえる。ティンパニ、大太鼓と銅鑼の相性も素晴らしく、スネアも相変わらず良い仕事をしている。1楽章の再現部の恐怖感や、4楽章を支配する不気味さなど、巧緻に組み立てられた世界観が感じられる一枚。

交響曲第12番 ニ短調 作品112 「1917年」

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2017.05.26~29 SONY

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ミヒャエルにしては野暮ったいテンポで始まり、切れ味が悪い。アレグロに入っても、12番の魅力でもある力強い疾走感は得られず、スネアは、11番から続けて聴くと「どうした!?」という感じで拍子抜けする。ミヒャエル特有の急なリタルダンドなどのテンポ操作の演出も、間延びしており、生きているとは言い難い。全集中でも素晴らしいあの11番の続編として聴くには困難だ。11番の録音は2018年なので、当ディスクはそれよりも前の録音ではあるのだが、ミヒャエル・ザンデルリンク全集全体のクオリティから言えば、残念なところ凡庸でなかろうかというのが正直な感想である。しかし、それでもところどころで印象的な演奏を聴かせてくれる。たこさん三つの評価としたが、全集の全てにコメントしたく、レビューに加えた。

交響曲第11番 ト短調 作品103 「1905年」

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2018.06.29~07.03 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンク全集、ついに11番であるが、これまでのディスクと同様にコントロールの効いたバランスの良い演奏であり、1番からの音色の一貫性は本当に素晴らしい。暗めの響きの中に、メリハリの効いたテンポ感。そして、このある種の落ち着きとでも言うべき佇まいは、冷たさや冷静さとは異なる。そして、ミヒャエルの11番はティンパニが実に良い仕事をしている。特に3楽章。全集全般的に、ティンパニはスネアやトライアングルのような特筆するインパクトはないものの、ややデッドな感じの渋い音色は気に入っていたが、11番ではティンパニが最も効果的に聞かれる。素晴らしい存在感。テンポは相変わらず速めの設定で、2楽章も落ち着きを持ちつつ難易度の高いテンポで虐殺に突入する。食い気味で強打のスネアも良いが、大太鼓のフォルテが凄まじいことに。最近、我が家のオーディオを低音重視のチューニングにしていることと、少し離れた位置でウーファーをしっかり鳴らしていることもあって、大太鼓の一音一音に部屋が揺れるような感覚。1楽章、3楽章の響きはこのミヒャエルとドレスデン・フィルの魅力そのもので、ミシミシと密度の濃いもの。そこにティンパニや大太鼓が重なるとまさにショスタコ・ワールド全開の世界観に包まれる。4楽章はこれまた快速テンポで始まるが(それにしてもミヒャエルの全集におけるテンポ設定は、時折ややオーバーな演出もあるものの、いずれも「まさにこれだ!」という感じ)、無理のない管楽器の鳴りと余裕のある弦楽器の響きの中で進行していく。ティンパニはここでも存在感のある主役のような立ち位置にあり、本当に感動的。この全集の中で最もティンパニ+大太鼓の組み合わせに感動する一枚。やはりショスタコはこうでなくては!練習番号176以降の警鐘は、ミヒャエルにしては遅めの展開。木琴と弦楽器のユニゾンの四分音符が短めに演出され、リタルダンドした上で176に入る。そして鐘はチューブラー・ベルではなく釣鐘。最後は止めずに鳴らす。スタジオ録音盤でこのように素晴らしい11番に出会えたことに感謝である。納得の一枚である。

交響曲第10番 ホ短調 作品93

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2015.09.08~10 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンクの交響曲全集では、初期の録音。ベートーヴェンの3番「英雄」と対になって発売された。この10番は既に知られている通りショスタコーヴィチの極めて私的な部分が出た交響曲。ミヒャエルのアプローチは慎重に感じられる。4楽章まで通して聴いてみて第一の感想は、「ショスタコの『幻想』だ」ということであった。ベルリオーズの「幻想交響曲」は実に不気味でナルシシズムに満ちた、ちょっと怖い音楽であると思っている。一方的なナルシシズムと陶酔するような密度の濃い偏執的な熱狂は、人を寄せ付けない。ある種の、気味の悪さをこの録音からは感じることができる。そもそもスコアを見れば、ここまで自署DSCHを叫んでいるのである。とんでもないナルシシズムだ。ありえないほどのDSCHですよ。ショスタコーヴィチのどこか客観的でクールな曲想が、ある意味では作曲者の特徴でもあるが、度々こうして爆発するように自己顕示欲なり自意識過剰な表現がマグマのごとく噴出する。想い人(ん?)への思いと、自らの署名の音型。…こ、これは、かなりスゴイ世界だぞ。この濃密な「プライベートな世界観」を表現した一枚として、ミヒャエル盤は素晴らしいと思う。4楽章の白眉(練習番号184)、レ~ミ♭~ド~シ~ドシャーン!は、ここまでDSCHを強調するかというほどの強烈なリタルダンドで、この曲の表現の答えを出したと言ってもいい。ミヒャエルはこうして10番を演奏してみせたのだ。「幻想」以上にナルシシズムに満ちた、ちょっと引いちゃうぐらいの濃密なDSCH世界!すごい。サーカスのような目まぐるしい場面転換と、内向的な表現。やはり10番とはすごい曲だなと思う。当盤、テンポは遅めに設定されており、2楽章は4分30秒を超える。ザクザクと突き刺さるような音色で一音一音を作り上げていく。スネアは全集の流れそのままで存在感のある重めの音色で、前のめりのテンポ感。トライアングルのギラギラした音色、シャリシャリしたシンバルの後から来るような表現、変わらずです。

交響曲第9番 変ホ長調 作品70

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2018.10.06~08 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンクの交響曲全集を1番から順番に聴いていくと、1、2、3と聴いた辺りで「これは9番に期待だ!」という気分になってくる。というのは、ショスタコーヴィチの短めの交響曲を丹念に仕上げて、高品質な録音でアッと言わせる表現もあるのであって、私は好きだ。録音数の少ないこうした交響曲で名演を世に出している指揮者は多かろう。さて、ミヒャエルの9番である。1楽章が意外と遅い!基本的に速め設定のミヒャエルが、やや重めの表現。なお、ベートーヴェンとの対比をイメージして出版されたわけだが、9番と言えばショスタコーヴィチ自らベートーヴェン9番やジンクスへの影響があって、軽めのディベルティメントに仕立てたとも言われる。当盤はこれまでの全集の流れ通り、音色は渋く深い。首尾一貫したアプローチであり、9番が浮いているという印象もなければ、やはり交響曲全体のバランスの中で成り立っている。

交響曲第8番 ハ短調 作品65

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2016.08.23~26 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンクの交響曲全集、どの曲をとっても本当に素晴らしいのである。全集録音として、とても充実したセットである。8番は、6番に続いて2番目の録音となるが、1楽章冒の第一音から密度の濃い響きで圧倒される。5番と似たスタートであるが、このショスタコーヴィチの進化と深淵を感じさせられるうねりは感激的だ。全体的にやはり速めのテンポで進んでいく。私は、ショスタコーヴィチには速さを求めたい方なので、このザンデルリンク全集は好みなのかもしれない。強奏部での絶望的なまでの悪の響きは、8番という曲の性格を表している。分厚い響きを作り出しており、ソビエト指揮者勢とは違った重苦しさを持っている。3楽章のテンポ感は抜群で、バランスも素晴らしいと思う。全集全般にスネアは重めの音色に食い気味のテンポでザクザクと鳴らしているが、8番3楽章では硬質で高めの音色。存在感のある突き刺さり方で、鳥肌が立つ。個人的なことかもしれないが、今の私のオーディオ環境、チューニングは、低音重視でドスドス鳴る中で高音が突き抜ける、という好みでの仕様になっている。この8番では最も効果的だったかもしれない。ティンパニの低音や大太鼓の重低音がドドドドッと迫る中で、スネアやシンバル、トライアングルがきちっと抜けて存在感を放つ。音響の混ざり合う素晴らしい迫力。この曲を、こうした充実感ある演奏で聴けることは嬉しい。

交響曲第7番 ハ長調 作品60 「レニングラード」

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2017.02.14~16 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンクの交響曲全集、ついに第7番である。素晴らしい迫力とダイナミクス。録音が素晴らしいのもあるし、コントロールされたオーケストラがこの大曲を実に感動的に演奏してくれる。3楽章、4楽章の包括的な演出は見事だと思う。素直に感動する。管弦打のバランスが実に良い。キレ味を持ちつつ、感動的な壮大な交響曲。7番は、個人的にも感情的になってよい曲だと思っているし、素直に聴きたいな、という一曲でもある。我が国では令和が始まる2019年に「玉木宏 音楽サスペンス紀行 ショスタコーヴィチ 死の街を照らした交響曲第7番」という番組が正月2日に放送され、私も見入った(玉木宏の、まるでショスタコーヴィチかという、細身のイケメン顔に黒ぶち眼鏡と黒コート、という出で立ちにも好感を得ました。玉木宏は、日本人なのになぜかショスタコーヴィチの30~40代を演じることができる役者ではないかと。写真キャプチャして掲載したいぐらい)。さて、ミヒャエル・ザンデルリンクは、ベートーヴェンとショスタコーヴィチの両交響曲の対比を世に示したわけだが、ベト6「田園」とショス6、ベト3「英雄」とショス10、ベト1とショス1、ベト5(運命)とショス5(革命)、ベト9「合唱付き」とショス13「バビ・ヤール」。これはなかなか素晴らしい企画で、ベト5とショス5の対比は当然としても、ベト3とショス10を対比したり、ベト9とショス13との対比は、とても面白い。さて、ショスタコーヴィチの7番はベートーヴェンとの対比において外れているぞ、というわけであるが、時代性を切り取った作品であり、ドイツとソビエトである。ここに「人間賛歌」というテーマがあるならば、ショスタコーヴィチの7番にはどの曲が対になるのだろうか、ということを考えても面白い。そんなことを考えながら、令和元年、ミヒャエル・ザンデルリンクの全集に出会えて幸せである。

交響曲第6番 ロ短調 作品54

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2015.03.16~17 SONY

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ミヒャエル・ザンデルリンクの交響曲全集は素晴らしい完成度で、いずれも名演揃いで実に整っているのが特徴だ。曲ごとの凸凹がなく、素直に1番から15番まで順番に通して聴く楽しさもあり、私としては、ショスタコーヴィチの交響曲全集をお薦めするならば間違いなくミヒャエル・ザンデルリンク全集であると思う(私の大好きなロジェヴェン全集やコンドラシン全集は好みがはっきり分かれると思うし、N.ヤルヴィはレーベルをまたがっているので全集が未出版という事情もある)。その全集の録音のスタートがこの6番である。この6番の録音を皮切りに、ザンデルリンクの全集録音が始まるのだ。この全集をファースト・チョイスとして、他の指揮者の演奏を聴きながら自分の好みを探すのもよいだろう。6番はアンバランスな交響曲であると思う。3楽章の構成であるが、1楽章が重いラルゴで全体の半分以上を占め、2楽章と3楽章は快速テンポで駆け抜ける。しかしながら、この当盤は1楽章と2・3楽章のつながりがとても自然で、1楽章の渋い響きがそのまま2楽章に引き継がれる。しかも快速で心地良いアレグロを聴かせてくれる。ソビエト勢の振り切った演奏表現ではないが、6番とはそもそもこういうまとめ方こそあるべきではないか、と思わせる説得力に満ちた演奏である。そして、スネアの「縁の下の力持ち」感は素晴らしい。決して主役に躍り出ないが、こういうスネア、とても好きです。

交響曲第4番 ハ短調 作品43

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2019.01.12~18 SONY

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ザンデルリンクの交響曲全集、2019年初頭に3番、4番、14番が録音され、ついにフィナーレ。数々の録音の中には、比較的小型の交響曲をきちっと仕上げて隙のない演奏をするタイプもあれば、大型の交響曲を壮大かつ感情的に広げて見せるタイプもある。当全集はそのようなカテゴライズをする必要もなく、堅実に全15曲を渋い響きで仕上げられている。ザンデルリンクの4番は、この全集の血脈の中で、実に充実した響きを聴かせてくれる。素晴らしいバランス。この複雑な難曲でありながら、オーケストラの統制が執れた素晴らしい一枚なのである。1楽章のプレストはこの曲の大一番だが、速めのテンポで突入したかと思えば、打楽器の連打からのアッチェルである!そしてコントロールされている。そして怒涛の全奏からのリタルダンドである。このカオスをダイナミックに演出した表現。全編にわたって、弦楽器を中心にギシギシと密度の高い演奏を繰り広げており、とても格好良い。3楽章に現われる牧歌的な主題など、とても良い音色です。ここぞ、というときにソビエト勢の指揮者や井上道義のような突き抜けた表現はないものの、スタジオ録音盤としては充実の満足度。なお、あまり注目されないかもしれないが、4番は打楽器のウッド・ブロックが大活躍する。15番と同様に(こうした打楽器は「小物」と業界では呼ばれるが、別段大物とか小物とかという身分的な差はない。楽器の身なりが小さいので小物、と)。そしてウッド・ブロックの宿命的な使命の一つに、スネアとのバランスがある。4番はプレストでスネアとユニゾンするだけでなく、随所で印象的なスネアとの共演があるが、このウッド・ブロックのスネアとの共演はとても素晴らしくて、ドレスデン・フィルの深めのスネア音に対して適切な鋭さと明るさと高さをもって寄り添い続ける。ウッド・ブロック奏者の名前も記したいほどの名演である。

交響曲第3番 変ホ長調 作品20 「メーデー」

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2019.01.12-18 SONY

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ザンデルリンクの交響曲全集、本当に素晴らしい!3番は情緒的な曲だが、客観性をもってこの曲のドラマツルギーを表現した一枚として、私はザンデルリンク盤を強く推したい。2番、3番は他の交響曲に比べて演奏機会が極端に少ないと思われるため、Live音源に出会うことは少ないが、マクシムのような感情的な演奏が魅力である一方、きちっと組み上げられた隙のない演奏も楽しい。であるならば、全集制作の一過程ではなくこの曲にも真剣に向き合うべきなのだが、このザンデルリンク全集の「優しさ」と「緻密さ」が表れた一枚で、素晴らしい。演歌のようなドラマチックさも恥ずかしげなくコントロールされた表現に収まっている。ダイナミクスの妙は言わずもがな、アッチェルもリットも格好良い。オーディオ効果も十分で、オーディオ・チューニング作業もとても楽しい。バシバシと決まる大太鼓と吊りシンバル!低弦の格好良さも比類ない。やはり3番は、ドン!バン!と決まるのが格好良い。全集全般に言えるがスネアの仕事ぶりが実に素晴らしく、バランスを崩すことはないが、テンポはやや食い気味で常に存在感にあふれている。音は深めで柔らかいが、音量が大きい。音色の良さでオケ全体に溶け込んでいる。打楽器ではトライアングルのギンギラの音色も素晴らしく、私の好みにぴったりです。ザンデルリンク全集、始まりの一枚だが、1番(34分)、2番(16分)、3番(28分)と実に世界観が作られており、どっぷりと嵌ってしまう(そして、ショスタコーヴィチの世界観に入り込みすぎると体調を崩す)ので気を付けなければ、というディスク。なお、それなりの大音量で聴いていたら、洗い終わったお皿の山が崩れました。さて、次は第4番。オラ、わくわくしてきたぞ。

交響曲第2番 ロ長調 作品14 「十月革命に捧げる」

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2017.03.23-24 SONY

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ザンデルリンクの交響曲全集から第2番。1番に続いてそのまま聴きたい一枚であり、ディスクには1~3番までが収録されている。セッション録音で1~3番までが一枚で聴けるというのは素晴らしいです。2枚目は第4番なので、それに備えるためにまずはじっくり3曲聴いておきたい。1番に引き続きメリハリのある演奏で、全体的に速めながらこの混沌とした交響曲が取っ散らかることなくまとまっている。キラキラした音色が魅力的。サイレンは不気味なノイズが乗っている。合唱は、MDR合唱団。ラストの「イ・レーニン!(そして、レーニン!)」は「レーーニン!」という感じやでやや延ばしているが間延び感はなくストレートで格好良い。「ニン!」に重なる吊りシンバルが素晴らしくシャープな切り込み具合で、この曲を完結させている。

交響曲第1番 ヘ短調 作品10

M.ザンデルリンク指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2017.03.23-24 SONY

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ザンデルリンクの交響曲全集、素晴らしい。2015年から2019年初頭にかけて、1~15番までこれほど近い時期に録り終わっており、録音の水準が整っていることに加えて、首尾一貫とした表現姿勢が読み取れる。だからこそ、1番から15番まで通して聴いてみたいという気持ちにさせられ、15曲まとめてショスタコーヴィチの人生観を味わいたくなる。そのスタートとしての第1番、実に濃密で引き締まった録音であった。全集全般にブレなく言えることだが、メリハリが効いていてダイナミクスが楽しい。そしてドラマチック。弦楽器がギシギシ、ミシミシとリアリティのある演奏と録音。全体的に優しい音色に感じるが安定した管楽器、迫力のある打楽器表現。重厚だが後ろに引っ張られるような重さはない。全集全般に言えることだが、速めに設定されたテンポも実にコントロールされており、演出の効いたアッチェレランドやリタルダンドも見られる。全体的に引き締まった録音が、曲に合っている。メリハリとコントロールの効いた一枚と言える。バーンスタイン、チェリビダッケ、テミルカーノフ、と1番はライブ音源ばかりに注目してきたが、セッション録音(ソニー・ミュージックによれば正確には「優れた音響効果で定評のあるルカ教会とリノヴェーションされて最新鋭のコンサートホールとして生まれ変わったクルトゥーアパラストの2か所でセッションをメインに収録」とのこと)では間違いなく頭一つ抜けたお気に入りの一枚。とにかくワクワクする全集の始まり。なお、ザンデルリンクはベートーヴェンの交響曲全曲録音と同時並行して当全集を録音しており、「ベートーヴェンは西洋音楽の根幹の一つである交響曲を完成させた作曲家であり、一方ショスタコーヴィチは交響曲というジャンルの締めくくりを宣言した作曲家である」とのことで、曲ごとにベートーヴェンとのカップリングで発売された。シンフォニストとしてのベートーヴェンとの対比も面白そうで、同時期に発売されたベートーヴェンの交響曲全集も大変興味深い。

更新情報

2019.08.10 ヴァイオリン協奏曲第2番のレビューを更新

スラドコスフキーの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.27 交響曲第15番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.27 交響曲第14番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.25 交響曲第13番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.24 交響曲第12番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.23 交響曲第11番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.20 交響曲第10番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.20 交響曲第9番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.20 交響曲第8番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.19 交響曲第7番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.18 交響曲第6番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.17 交響曲第4番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.15 交響曲第3番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.15 交響曲第2番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2019.07.13 交響曲第1番のレビューを更新

ザンデルリンクの録音を追加しました。レビューはこちらから。

2017.07.19 映画音楽「馬あぶ」のレビューを更新

ソンデツキスの録音を追加しました。レビューはこちらから。

これより過去の更新情報はこちらです。