交響曲第6番 ロ短調 作品54
コンドラシン指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1968.01.21/Live Philps
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交響曲第6番のベスト盤を挙げよと言われたら、まずは次の5枚が浮かぶ。つまり、コンドラシンのコンセルトヘボウ盤、来日盤、ムラヴィンスキー65年盤、72年盤、そしてロジェストヴェンスキー全集盤。いずれも素晴らしい演奏で、特にコンドラシンとムラヴィンスキーはライブ録音であり、この一期一会の音楽をよくぞ音盤に封じ込めてくれたと思うばかりである(改めて「録音」という人類の技術に感嘆するのである)。さて、当盤であるが、もう1楽章の第一音から凄まじいキレ味とコンドラシンらしいサウンドなのである。いや、こうした録音技師の表現によって、現代の我々は「コンドラシンのサウンド」というものを理解しているということか。1楽章の凍て付くような研ぎ澄まされたサウンドは唯一無二と言える。全体的には、他の4枚と比べて明らかにバランスを飛び抜けるような際立った特徴はないが、世界観の説得力と一気呵成のスピード感、迫力に当盤を推したい。2-3楽章は超快速。コンドラシンの3種の録音中、最も速い。破綻せずにこのスピードを駆け抜けるのは神業か。金管、打楽器は強烈に鳴り響く。冴えた響きはコンドラシンならではと言えよう。打楽器は、ロジェストヴェンスキーやムラヴィンスキーのような超強烈な一撃こそないものの、スネア、ティンパニ、吊りシンバル、銅鑼、いずれも素晴らしい。はっきりした粒立ちで、よく鳴っている。怒涛のような勢いとシャープな響きを持ち、決して表面効果だけではない深い造形をみせる。そして、ムチのようにバチッと鋭い打撃音を聴かせ続けるタンバリンの圧倒的存在感。ライブ特有のノイズが多少気になるものの、以外にも古い録音年にしては音質は良好。フィリップスの限定盤シリーズ。素晴らしいディスクだ。なお、私にとってはこのディスクが初めて聴いたショスタコーヴィチの6番であり、町田Taharaで購入して高校時代から愛聴する一枚。言うまでもなく、併録のニールセンの5番も私にとってはベスト盤である(独奏スネアの素晴らしいリム・ショットを聴くことができる)。
コンドラシン指揮/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
1967.04.18/Live Altus
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アルトゥスによる67年の伝説来日ツアーから。2週間少しで全国9公演、オイストラフ指揮による2公演も加えれば11公演という、現代ではおよそ考えられない超絶ツアー。終盤8公演目の東京文化会館。さすが我が国公共放送NHKの優秀録音とやはり我が国アルトゥスによるリマスタで、68年のコンセルトヘボウ盤を凌ぐ録音状態。メリハリの効いた鋭い打撃音が魅力的な演奏で、各楽器とも尖りに尖りまくっている。音程感のないティンパニの強烈なこと。1楽章の練習番号13手前、そして2楽章ラストのソロは、これだけでこのCDの価値を見出せるほど。ロジェヴェンをも上回る暴れっぷり。オーケストラはここまで鳴るのだということをわからせてくれる。トライアングルが妙に近くに聞こえる。どこを取っても刺激的な一枚で、コンセルトヘボウ盤との甲乙は極めて付け難いが、やはりこの曲にはもう少しスマートさや爽快感があってもいいかと思う。
ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1965.02.25/Live Scribendum/Melodiya
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スクリベンダムのリマスタリングでますますその演奏の真価が発揮されたムラヴィンスキーの65年盤(選集収録盤と同じ)。テンポはコンドラシンを上回る快速ぶり。冒頭から1楽章の深みは比類ない。ムラヴィンスキーのショスタコーヴィチ、という一連の芸術表現が確かにある。他の交響曲にも通ずるムラヴィンスキーが奏でるショスタコーヴィチのサウンドだ。張り詰めた緊張感ある響きと、狂気じみた、それでいて計算されたような感情的でない炸裂ぶりがムラヴィンスキーらしい。ほとんど理想的と言って過言でない。強烈な金管に圧倒される。特に強奏部は感涙ものの凄まじさ。生で聴いたら失神してしまう。スネアや金属系打楽器も好演。フォルテシモのあとのピアニシモなど、完全に抑制が効いている。感情にまかせて爆発する無責任な演奏ではなく、かなり細かいところまでコントロールされた見事としか言えない演奏。ところで、3楽章はタンバリンの追加やシンバルが随所で楽譜と違う。ショスタコーヴィチ6番の完成系を聴かせてくれた名盤であるものの、(スクリベンダムのリマスタでここまで録音を甦らせてくれたわけだが)それでもティンパニの遠さをはじめ、録音面での難点はある。
ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1972.01.27/Live Scribendum/Melodiya
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スクリベンダムのリマスタによる72年盤。素晴らしい。音像がより鮮明になりムラヴィンスキーの鋭く尖った刺激的なサウンドになっている。65年盤に負けず劣らずの名演で、1楽章はやや遅めのテンポでじっくりと聴かせ、ティンパニの強打や悲鳴のようなギリギリッと唸るオケが不気味。ティンパニの録音は65年盤より良い。3楽章にはタンバリンの追加やシンバルの変更あり。
ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立文化省交響楽団
1983 BMG/Melodiya
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狂気を孕んだ1楽章。ロジェストヴェンスキーは「そこまでやるのか!」を実践する指揮者。妙に音程が悪かったりするが、それがまた狂気に拍車を掛けるのは、この全集の特徴か。コンドラシンやムラヴィンスキーに比べれば2、3楽章は遅めのテンポを取るわけだが、そのテンポの中で一音たりとも気の抜けない緊迫感あるサウンドはロジェストヴェンスキーならでは。べったりと鳴らず金管の心地良さ。練習番号67ティンパニ・ソロ直前のリタルダンドの重いこと。3楽章ティンパニのあまりに苛烈なソロは言うまでもなく、練習番号122手前のフォルテ一つのFisをぶっ叩く様には思わず「これだ!ロジェヴェン様!」と喝采したくなる。やはりソビ文最強の打楽器軍団が楽しい。強烈無比。もはやオーケストラの概念を覆すソビエト文化省響。
ロジェストヴェンスキー指揮/BBC交響楽団
1980.12.10/Live BBC
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鋭い響き!爆裂する管打!ロジェヴェンだーッ!…というわけで、聴けば聴くほど興奮やまずに次第に笑いへと至るロジェヴェン先生の強烈ライブ。3楽章のラストに向かうドラマチックなスピード感は、他のどの録音にもない大興奮の坩堝で面目躍如。やはりこの金管の鳴りは素晴らしいのう。ソロも含め、弦楽器の冴えた響きも感動的だ!2006年頃にショスタコのCDがわんさと出て以来、最近ではすっかり新譜も減って、こういった種類の演奏に出会わなかったのだが、「やっぱり我々はロジェヴェンのショスタコが好きなんだ!!」ということが再確認できる一枚。格が違いすぎる。なお、このディスクに収められている12番は既出で、ミスも多くイマイチなのだが、6番と「タヒチ・トロット」はこれでもかという盛り上がりで聴き手を圧倒する。「タヒチ・トロット」はベスト演奏に違いなく、この曲をこんなにアグレッシブに演奏することに感動。観客のどよめきや笑いみたいなものが聴こえるのだが、当日の客席に座っていられたらどれだけ幸せだったろうか。
コンドラシン指揮/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
1967 BMG/Melodiya
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1楽章の思索的で張り詰めた雰囲気が素晴らしく、静と動の表現の美しさには息を呑む。他2種のライブ盤(コンセルトヘボウ盤、来日盤)と比べると、スタジオ録音だけあって冷静な演奏だが、研ぎ澄まされたキレ味は一段と良い。特に強奏部での録音は良いとは言えないが、コンドラシンのこの曲への一貫した表現には心から共感し、その世界観に誘われる。スピード感とキレ味鋭いサウンドに陶酔する。乾いた鋭い響きの弦楽器に鳥肌が立つ。
K.ザンデルリンク指揮/ベルリン交響楽団
1979.4 Berlin
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ロシア・ソビエト勢の録音とは一線を画する、ドイツオケによる広がりある深い演奏。派手さのない真摯な演奏ながら、強奏部は心地良く各楽器が鳴り響く。重めのサウンドだが鈍重さは一切なく、分離も良く明瞭。はっきりしたテンポは終始乱れることがない。深淵な表情を見せる1楽章の厚みもさることながら、2-3楽章もこういう聴かせ方があったか、という圧倒的な説得力に満ちている。この曲の一つの解答とも言える名盤である。
ネルソンス指揮/ボストン交響楽団
2017.04-05/Live Deutsche Grammophon
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ネルソンスの全曲プロジェクトからの第6番。併録は、劇付随音楽「リア王」、「祝典序曲」、そして第7番「レニングラード」。相変わらず贅沢な組み合わせで、本テキスト作成時点では交響曲は4番から11番までリリース。1-3番と12-15番を残す、という面白い状況。特に2、3番辺りは楽しみでならない。管弦楽曲の併録も楽しく、ぜひ「十月革命」や映画音楽を聴きたいものだ。さて、この第6番。これまで聴いてきたネルソンスのシリーズの印象は変わらず、実に余裕のあるオーケストラ、コントロールされ安定したテンポと響き、そして驚くほど明瞭かつ豊かな録音。私は、6番は2・3楽章のスピード感がお気に入りで、コンドラシンやムラヴンスキーのカーチェイスのようなスリリングな演奏が好みであったが、こうしてスコアを片手にしっかりと聴き込んでみると実に奥深いショスタコーヴィチの世界が堪能でき、細部まで表現された当盤には舌を巻く。これまでの6番の聴き方を反省するような気分になった。ネルソンスは実にバランスが良い。鳴ってほしいところはしっかりと鳴るし、理想的な再現度だと思う。全体的にはやや遅めの設定だが、1楽章も激情型の演奏というよりは計算された演出というか、実にコントロールされた表現なのである。練習番号12からのドラマチックなティンパニの演出も素晴らしいし、「やはりショスタコって銅鑼だよな」と改めて思うピアニシモの銅鑼の響きも良い。2-3楽章も綿密に構成されたこの曲の細部を丁寧に聴かせてくれており、サーカス的な演奏とは真逆なものの、ほしいところでほしい音が鳴る、というオーケストラの力量を感じさせる。文句のない名演と言っていいだろう。
V.ユロフスキー指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
2013.05.13/Live LPO
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旧盤から約10年を経てのライブ録音。ロンドン・フィルの力強いサウンドが、より指揮者の表現を強靭なものにしており、バリバリと唸るような鋭い響きが魅力的。深淵というよりは表層の鋭利さをもって表現する1楽章は個性的で印象的。2-3楽章のテンポ感は理想的で、疾走感と共に整ったリズムと丁寧な演奏が良い。ロンドン・フィルのサウンドがショスタコーヴィチによく合っているということと、アタックの効いた打楽器の素晴らしさもこの録音の価値を一段と引き上げている。3楽章のタンバリンは特に印象的で、とにかく堅い。
ラザレフ指揮/日本フィルハーモニー交響楽団
2016.05.20-21/Live Exton
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ラザレフと日フィルによるショスタコーヴィチ・シリーズから。日フィルとの「ラザレフが刻むロシアの魂」の第3シーズン。日フィルの切れ味鋭いサウンドが見事に収録された高音質録音。日フィルはよほどラザレフとの相性が良いのだろうか、海外の名門オーケストラにはパワー負けしそうだが、都会的で華麗、深刻になりすぎない明るいサウンドが引き出されている。ひたすらオーケストラの機能で聴かせる演奏でもなく、個性が光る。ラザレフにしては落ち着いたテンポだが、サウンドにスピード感があるので心地良い。私は、このシリーズのラザレフと日フィルのサウンドにすっかり魅了された。耳に痛いタンバリンの鋭い打撃音、存在感ある大太鼓のアクセント、打楽器のアプローチも非常に好感が持てる。
M.ショスタコーヴィチ指揮/プラハ交響楽団
1999.03.02/Live Supraphon
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1楽章が渋い。これは良い。プラハ響の湿ったサウンドが良い、これがまた。全集の中でも全体的に安定していると思いきや、2-3楽章は素晴らしい弾け具合だ。2楽章はやや遅めに感じるテンポだが、要所での各楽器の主張が楽しい。外連味が魅力的だ。オケが苦しくなってくると打楽器だけで盛り上げてくれるようなところ。練習番号66番とか、大太鼓がドカン!と鳴ってぐちゃぐちゃーっと。そして、頂点であるはずのティンパニ・ソロがいまいち決まらないという、どこか外した感じもマクシムらしい。そして3楽章。ラストに向かってハチャメチャにやってくれる。突出する小太鼓は個人的にとても好みである。
N.ヤルヴィ指揮/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
1985.05 Chandos
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実にこのコンビの演奏らしく、テンポは速く、オケの鳴りも良い。ホルンをはじめとするスマートな金管の咆哮はスコティッシュ管の特徴であろう。2-3楽章の打楽器は特に好演で、ティンパニ、スネアからタンバリン、サスペンデッド・シンバル、銅鑼の音色まで申し分ない。聴かせる部分をきちんと心得ている。3楽章ラスト数小節は駆け込むようにアッチェルし、アンサンブルの乱れもお構いなしに凄まじい乱闘の様相を見せる。
P.ヤルヴィ指揮/エストニア祝祭管弦楽団
2016.07.17-19 Alpha
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エストニア祝祭管は、ヤルヴィ家によってプロデュースされたヤルヴィ音楽アカデミーのパルヌ音楽祭の常駐オケということで、一発オケともユースオケとも異なるようだ。素晴らしい技術を持ったオーケストラであり、パーヴォの華麗な曲作りに見事に応えている。非常に美しく、そして毒のない演奏だが、音楽が薄くなることはなく、超高速で振る3楽章も高い技術に支えられて実に聴き応えがある。併録の「シンフォニエッタ」は、アブラム・スタセヴィチがアレンジしたというティンパニと弦楽のための弦楽四重奏曲第8番。原曲ともバルシャイ版とも異なる雰囲気で、存在感抜群のティンパニが面白い(とは言え、ショスタコーヴィチはこのようなティンパニの楽譜は書かない)。これは聴くべき。
スクロヴァチェフスキ指揮/ハレ管弦楽団
1997.11.07 Halle
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オーケストラが素晴らしく、驚くほどよく鳴る。ショスタコのオーケストレーションの美しさ、豪華さ、凄まじさを堪能できる一枚。大迫力の演奏だが、上記のようなロシア・ソビエト系の演奏とは明らかに違う。爽やかで快活なサウンド。2-3楽章の疾走感はゴテゴテとした味付けとは無縁ながら、メリハリの効いたドラマチックなものになっている。スクロヴァチェフスキはブルックナーの名手だそうだが、ぜひともショスタコーヴィチの録音をもっと聴いてみたかった。
ハイティンク指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
1983.12.19 Tower Records/Decca
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ハイティンクの冴えたサウンドの充実度は鳥肌もの。80年代、ムラヴィンスキーに拮抗する西側指揮者として第一に名前を挙げたい。6番がハイティンクのサウンドに似合っているかどうかという話を抜きにしても、勢いと爽快感で聴かせるわけでもなく、あくまで丁寧にきっちりと仕上げられた演奏。几帳面なアプローチはハイティンクの特徴だが、この濃密なオケの鳴りは心底カッコイイ。何かに追い掛けられるようなゾクゾクした錯覚を得られる。
井上道義指揮/サンクトペテルブルク交響楽団
2007.11.04/Live Octavia
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日比谷公会堂の交響曲全曲演奏プロジェクト2日目。5番に続いて休憩後に6番。2楽章がかなり遅いテンポを取っており、コンドラシン盤と比べるまでもなく疾走感を求める解釈ではない。3楽章もサウンドが重たいので、これは5番の延長として聴く6番なのだ、ということで捉えてみるとどうだろう。プロジェクト2日目にして、5番で井上とサンクトペテルブルク響のサウンドに魅入られた者としては、この6番は単独でCDで聴くよりも、あの日比谷公会堂の中で連続して聴くべき音楽なのだ、という実感に支配される。鈍い響き、沈むように重いアタック、決して華やかにも楽観的にもならないアプローチ。井上は、5番が革命賛美やスターリン批判からの「強制された歓喜」という古い解釈ではなく、ショスタコーヴィチ個人の深い情念にまつわる音楽であるという学説に基づいて演奏しており、6番の響きがそれに続くものだとしたら、5番と6番が連続して演奏される意味、そしてその価値に気付かされるというものだ。
M.ザンデルリンク指揮/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
2015.03.16-17 Sony
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ミヒャエル・ザンデルリンクの交響曲全集は素晴らしい完成度で、いずれも名演揃いで実に整っているのが特徴だ。曲ごとの凸凹がなく、素直に1番から15番まで順番に通して聴く楽しさもあり、バルシャイと並び万人にお薦めできるショスタコーヴィチ交響曲全集(ロジェヴェン全集やコンドラシン全集は好みがはっきり分かれると思うし、N.ヤルヴィはレーベルをまたがっているので全集が未出版という事情もある)。その全集の録音のスタートがこの6番である。この6番の録音を皮切りに、ザンデルリンクの全集録音が始まるのだ。この全集をファースト・チョイスとして、他の指揮者の演奏を聴きながら自分の好みを探すのもよいだろう。6番はアンバランスな交響曲であると思う。3楽章の構成であるが、1楽章が重いラルゴで全体の半分以上を占め、2楽章と3楽章は快速テンポで駆け抜ける。しかしながら、当盤は1楽章と2・3楽章のつながりがとても自然で、1楽章の渋い響きがそのまま2楽章に引き継がれる。しかも快速で心地良いアレグロを聴かせてくれる。ソビエト勢の振り切った演奏表現ではないが、6番とはそもそもこういうまとめ方こそあるべきではないか、と思わせる説得力に満ちた演奏である。そして、スネアの「縁の下の力持ち」感は素晴らしい。決して主役に躍り出ないが、こういうスネア、とても好きです。
アシュケナージ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1988.11 Decca
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極めてオーソドックスな演奏で、特別に個性があるというわけではないが、不足もない。こういうスタンダードな演奏というのも貴重だと思う。ロイヤル・フィルのいつもながらホルンの強奏は特筆すべきものだが、全体的に手堅くまとめ上げたという印象。テンポも安定している。
バルシャイ指揮/ケルンWDR交響楽団
1995.10.17,20 Brilliant
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話題をさらったブリリアントのバルシャイ全集より。この6番は非常に硬質な音色でガッチリと固めた演奏。非感情的なスタイルはムラヴィンスキーを思い起こさせる場面もある。意外にも速めのテンポを取るが、リズム感も良く、ぐいぐいと進んでいく。どこか乾いたサウンドで冷静さの中に爆発力も秘め、オーケストラの技量もあり、見事な一枚。
ロストロポーヴィチ指揮/ワシントン・ナショナル交響楽団
1994.06 Warner/Teldec
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力強いアメリカオケの中では埋もれがちなナショナル響だが、その秘めたパワーが炸裂した快演。鋭利な音色でざくざくと決める。1楽章などは、もう少しいつものロストロらしくドロドロと仕上げても面白そうなものだが、爽快ささえ感じる聴きやすさ。2-3楽章もあっけらかんとした様子で軽快に聴かせている。特に2楽章の疾走感は素晴らしい。