交響曲第2番 ロ長調 作品14「十月革命に捧げる」
キタエンコ指揮/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
2004.01.20-24,07.13-17 Capriccio
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これがショスタコーヴィチの2番だ!その真実の響きを聴かされた気分。それはSACDの超高音質のなせる業かもしれない。この音質で2番が聴けるだけでも幸せである。演奏機会がほとんどないだけなく、ショスタコーヴィチの交響曲の中でも特に録音が少なく、聞き比べの機会に乏しい。見てみたまえ、このページの惨状を。ここで紹介しているディスクもほとんど全集からの一枚じゃあないか。名演で、しかも優秀録音なんて贅沢なものだが、ようやく真打登場である。冒頭の大太鼓のロールの深さに度肝を抜かれるが、ウルトラポリフォニーでここまで明確に各楽器の音が聴こえてくるなんて!これはもう、凄すぎる。この音質で聴いて初めてわかってくる部分もある。若き鬼才の凄まじいオーケストレーションが魅力的な交響曲だ。実際、ショスタコーヴィチは十月革命をテーマとして合唱を付けつつも、実験的な要素をふんだんに取り入れており、こうした作品は、この時期のショスタコーヴィチにしか聴くことができない。さて、音質の良さばかり書いてしまったが、演奏内容が真実素晴らしい。トロンボーンやチューバなどが強烈な音色を聴かせるのはこの全集の特徴。けれど決してがなることなくコントロールの効いた造形を見せる。小難しくドロドロと歌うような部分も少なく、見通しも良い。ピアニシモからフォルテシモへのダイナミクスは、録音の良さも手伝って感動的なまでの幅。サイレンは、音量はあまり出ないものの空襲警報のような不吉な音色だし、合唱も明瞭な声質とドラマチックな歌い込みで単純なまでにぐわっと盛り上がる。シュプレヒコールは「レーエニンッ!」とバシッと決まって爽快感さえ覚える。
ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立文化省交響楽団
1984 BMG/Melodiya
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冒頭の「ゴゴゴゴ…!」という大太鼓のロールからもう心を奪われる。ソビエト初のデジタル録音とのことで、この人工的な録音にもとうに慣れた(ふむ)。極端に遅めのテンポで、まるで超常的な力で時間を遅くさせて、細部まで濃密に表現していくような不気味さがある。決して緩慢にならず、引き締まった演奏。各楽器ともよく鳴っている。フーガはテンポが遅い分、各楽器がクリアに聞こえ、曲の中身がよく見える。スネアをはじめ打楽器は凄まじい大音量。ロールの頭や最後に強烈なアクセントを効かせるのはソビ文の特徴か。この曲にはもう少しキラキラした透明感がほしいところだが、このゴテゴテした聴くだけで疲れる演奏は、シャープな響きにはかなり遠い。ギラギラした金属系の楽器(金管楽器やトライアングル、シンバル、グロッケンシュピール等)の存在感、他と混じり合うことを否定するかのような煌めきが何とも凄い。ラストのシュプレヒコール、「十月革命、コミューン、レーニン!」の絶叫度が素晴らしい。さすが文化省!こうでなければ!文化省が叫ばなくてどのオケが叫ぶのか。やはり「レーニン!」はあまり伸ばさずに短めに叫ぶのが良いと思う。少し間を置いてのダダダッと素早く連打する打楽器も雰囲気が出ている。また、最後の一音とその余韻も素晴らしい。
M.ショスタコーヴィチ指揮/プラハ交響楽団
2005.12.06-07/Live Supraphon
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なんだかスゴイぞ、この演奏は!不足するものが多数ありながら、この勢い、大太鼓の強打とヒステリックなサウンドが、この第2番をまた別の視点から見事に示してくれる。オーケストラ(のアンサンブルや音程)は、合っているのかいないのか、ここまでくるとどうでもいい気さえしてくるが、スゴイ迫力だ!!そして、サイレン!!怖い!!ホラー映画だ、この音。超ビックリでドキドキが止まらない。何か不吉なものに追い掛け回されるような…。そして、そんな恐怖のあとに現れる合唱のなんと美しいことよ。マクシムとプラハ響のライブ全般に見られるパワー不足はもちろん承知の上だが、クラシック音楽、オーケストラが一つの表現活動なのだとすれば、確かにここに強烈な表現のかたちがある。このテンション。こんなに激しい2番は聴いたことがない。なお、サイレンはショスタコーヴィチ自身が工場まで出掛けて吟味して選んだもので、音程はFisを指定している(無論、マクシムの恐怖のサイレンは、音程がどうというものではない)。
M.ザンデルリンク指揮/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
2017.03.23-24 Sony
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ザンデルリンクの交響曲全集から第2番。1番に続いてそのまま聴きたい一枚であり、ディスクには1-3番までが収録されている。セッション録音で1-3番までが一枚で聴けるというのは素晴らしいです。2枚目は第4番なので、それに備えるためにまずはじっくり3曲聴いておきたい。1番に引き続きメリハリのある演奏で、全体的に速めながらこの混沌とした交響曲が取っ散らかることなくまとまっている。キラキラした音色が魅力的。サイレンは不気味なノイズが乗っている。合唱は、MDR合唱団。ラストの「イ・レーニン!(そして、レーニン!)」は間延びなくストレートで格好良い。「ニン!」に重なる吊りシンバルが素晴らしくシャープな切り込み具合で、この曲を完結させている。録音も良く、この第2番をよくぞこの録音で聴くことができたと感謝したい。
ロストロポーヴィチ指揮/ロンドン交響楽団
1993.02 Warner/Teldec
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ロストロポーヴィチの2番と3番は、全集中でも抜群のドライブ感。オケの鳴りが素晴らしい。ロンドン響のドラマティックでいてクールな、冴えた響きが非常に良い。バシバシと決まる打楽器群も気持ち良い。鋭く突き刺さるような鋭利な音が素晴らしい。それでいて、きちんと響いて広がりを見せる。オケの上手さを十分に堪能できる。ロストロのテンポ設定も少し速めで心地良い。現代音楽的なウルトラ・ポリフォニーは、ドロドロとさせずにスッキリと通り抜けていく。ソビエト臭を丸出しにした演奏も面白いだろうが、こうしたアプローチの方がむしろ現代的か。サイレンは置き換えか。なお、私は高校生の頃からテルデックからバラ売りされたものを集めたが、2019年にワーナーが再発売した全集盤を入手。中身のそれぞれの紙ジャケットが当時のデザインでとても嬉しい。
コンドラシン指揮/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
1972 BMG/Melodiya
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ソ連サウンドが炸裂するコンドラシンの全集から。引き締まったテンポと緊張感は、このコンビと当時ならではのもの。録音が古く、合唱などがこもって聞こえるのが残念だが、それでもこのただならぬ雰囲気はまさにショスタコーヴィチの世界。フーガは速めのテンポで突入、現代的な世界観を見事に表現。特に最後のシュプレヒコールの圧倒的な音圧は凄い。レーーーーーニン!!!の「ニン」は短い。その後、太鼓がゆっくりと「ダン、ダン、ダン」と重く入る。標題的というよりは、交響的(当然なのだが)な冷静さと緻密さが好きだ。
井上道義指揮/大阪フィルハーモニー交響楽団
2018.03.09-10/Live Exton
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井上道義と大阪フィルによるエクストンからのシリーズ。4,7,11番ときて2-3番のCD化。しかもSACDである。我が国のショスタコーヴィチ2-3番演奏史に新たな記念碑を打ち立てた名演。そもそもCDでも聴く機会は少ないのだが、こうして日本でのライブ録音を聴くことができて嬉しい。ぷい~んと鳴るサイレン以外には特別に何か個性的ということはなく、日本のオケと合唱団による真面目な演奏。ソ連のオケで聴かれるような合唱の迫力と比べてどこか優しく、(ディクションについては私に何ら評価できる耳はないものの)一般にイメージされるロシア語の発音の強さ(文化省響のカペレの印象か)を感じさせない響き。SACDで細部まで聴かせてくれる録音で、フーガの明瞭さは清々しいほど。リズム感が良く、ザクザクと先導するスネアの歯切れ良さが素晴らしい。演奏会への井上氏のコメントは公式WEBサイトで読むことができ、井上氏らしい毒舌かつ正直な感想は毎度面白い。それにしても、定期のリハは3日まで、という組合との規定があるとは。
ウィグレスワース指揮/オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団
2010.10 BIS
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ようやくこの2-3番の録音をもって全曲録音が終了。実に14年。音質が相変わらず素晴らしい一方、驚くほど広いダイナミクスレンジが鑑賞の環境を選ぶ困ったディスクでもある。この演奏が素晴らしいことは間違いないのだが、暗い響きで極めて冷静に整然と演奏するショスタコーヴィチの2番は、どこか不気味だ。とても客観的で、聴き手の感情と演奏との距離がかなりあるように感じる。ピアニシモが本当に小さすぎて、静まり返った中で遠くから聴こえてくる(そして決してうるさくないが存在感のある)サイレンの不気味さは比類ない。合唱も整然としすぎており無機質なイメージ。なおさら恐怖感が増す。トラックは四つ。
バルシャイ指揮/ケルンWDR交響楽団
1995.01.23 Brilliant
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さすがバルシャイらしい精緻な作りで、はっきりとした輪郭の弦楽器が魅力的であることはこの全集に共通する特徴。ピアニシモの扱いがとても丁寧で、録音もよく拾ってくれる。サスペンド・シンバルのロールは素晴らしい存在感と、個人的にはかなり好みの音色。フーガのテンポ、リズムも良く、複雑なこの曲をわかりやすく、まるで設計図を見ながら模型を組み立てていくようなわくわくした気持ちで聴くことができる。整然と仕上げてみせるバルシャイの手腕にはつくづく惚れてしまうが、「ショスタコーヴィチの2番ってどんな曲?」という回答として、このバルシャイ盤を薦めたい。
コフマン指揮/ボン・ベートーヴェン管弦楽団
2004.09.16-17 MDG
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オケが薄めで軽いものの、丁寧でハッキリとしたサウンドが魅力的なコフマン全集。コフマンという指揮者はこの全集録音が始まるまでは知らなかったが、ウクライナ出身の1930年代生まれの指揮者とのことで、ロストロポーヴィチやロジェストヴェンンスキーより少し下の世代だが旧ソ連のベテラン。2番は、破綻なくしっかりと造形された構築美と、複雑さを感じさせない丁寧で明瞭な弦楽器が魅力。十分な熱気が込められた演奏で、大太鼓が印象的。ダイナミクスが効果的で、後半の盛り上がりは感動的。合唱も美しく、サイレンも違和感のない仕上がりになっている。最後の一音が素晴らしい。
井上道義指揮/サンクトペテルブルク交響楽団
2007.11.03/Live Octavia
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日比谷公会堂での交響曲全曲演奏プロジェクト初日、伝説のライブは1,2,3番で幕を開けた。まさか1番から3番まで一度の演奏会で連続で聴く日が来ようとは。1番のあとに休憩を挟み、合唱付きの2番と3番。まずはこの2番。大阪フィルとの後年の演奏と比較すると、独特の薄いサウンドが不安を抱かせるが、余計な残響のないダイレクトな響きはとても魅力的。金管、特にトランペットの細さと怪しい音程が不思議とこの2番の不気味さを感じさせるが、何と言ってもサイレンの気味の悪さと言ったらとんでもない。まるで人のうめき声のような気味の悪さで、「ここで鳴る」とわかっているのに何度聞いてもドキッとしてしまう。おぞけ、とでも言おうか。マクシム盤と双璧を成すサイレン。そしてサイレン後、合唱が入ってからの後半部分の充実度が素晴らしい。
ブラジュコフ指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
1965.11.01/Live Russian Disc
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一部で根強い人気を誇るブラジュコフのショスタコーヴィチ。特に2番は秀逸で、ライブならではの緊張感と迫力に包まれた演奏。録音は良いとは言えないが、60年代のソビエト録音にしては良好。レニングラード・フィルの響きは硬質で、ショスタコーヴィチには実によく似合っている。こうしたギスギスした録音状態も、それほどマイナスにはならない。合唱部分より前は、張り詰めた緊張感と強烈な音色がそれらしい雰囲気を作っているのだが、いざ合唱が始まるとややのっぺりとした凡庸さを感じさせる。シュプレヒコールは歯切れがよく、「レーニン!」は短くバシッとキメてくれる。やはり東側の演奏は良いですなぁ…。
ハイティンク指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1981.01.25,27-28 Tower Records/Decca
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ハイティンクのショスタコ演奏は純器楽的と評されることが多いようだが、なぜだろう。純器楽的、イデオロギー的、標題的、様々な便利な言葉があるが、ショスタコーヴィチの言を借りるならば、音楽以上に音楽を説明できるものはないのであり、結局のところ、聴き手に全ては委ねられている。「十月革命」というコテコテのタイトルと、「レーニン」のシュプレヒコール付きのこの第2番だが、ハイティンクはヴォルテージの高い演奏を聴かせる。ウルトラ・ポリフォニーの勢いも、バリバリと鳴り響く管楽器も大変素晴らしい。格調のあるハッキリとした真面目な演奏で、ハイティンクの全集の中でも高く評価されるべきであろう。ロンドン・フィルハーモニー合唱団の煌びやかな合唱も素晴らしい。いまいち気合の感じられないシュプレヒコールは、冷戦時代の反映とは思わないが、ショスタコーヴィチの交響曲が持つ独特のサウンドを真摯に再現している演奏と言えるだろう。
ネルソンス指揮/ボストン交響楽団
2019.11/Live Deutsche Grammophon
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ネルソンスの交響曲全曲録音がついに完結。最後は3枚組。どこか懐かしいBOX仕様のジュエルケース(町田のタワーレコードで手に取ったときに思わず感動してしまった)。全曲を通してまったくブレないネルソンスの安定した解釈とボストン響の高い技術、DGの素晴らしい録音。このサウンドで全15曲を聴くことができるとは。明瞭なサウンドで外連味のない2番。スコアを片手に聴いてみると、全曲がすっきりと頭に入ってくる。全曲をデジタルに分解、解析して組み立て直してみると、この曲の構造と仕掛けがよくわかる。録音の良さもあって金属系打楽器の歯切れの良さと豊かな倍音が素晴らしい。サイレンはオケによく合った上品なサウンドで、こういうのもありかと思わされる。
ヤンソンス指揮/バイエルン放送交響楽団
2004.06.29-30,2005.01.10 EMI
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旧ソ連系指揮者の系譜ヤンソンスが、バイエルン放送響の首席指揮者時代に録音した演奏。トラックは三つに割れている。流麗なサウンドで、ソ連系オケでこの曲に聴かれるようなゴツゴツとした不格好さはない。整っており、どこか軽やか。洒落た感じに仕上がっているコーダは必聴だろう。豪華なオーケストラのサウンドゆえなのか、サイレンがとても耳障りに聴こえる。ところで、バイエルン放送響は、コンドラシンが首席指揮者に就任予定だったとのことだが、急逝により叶わぬ夢に。もしコンドラシンがバイエルン放送響を鍛えていたらそどのようなオケになっていただろうか。
N.ヤルヴィ指揮/エーテボリ交響楽団
2000.08 Deutsche Grammophon
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ヤルヴィのショスタコ全集がこのディスクで完成。シャンドスとDGをまたいでの完成である。分厚い解説書を付けてBOX仕様での発売を望むが、それは難しいだろう。録音も優秀、トラック割りも親切、そして国内盤という、2番・3番のディスクとしては珍しい一枚。エーテボリは、決して弱いオケではない。確かに未だ知名度の低いオケではあるが、そのパワーは凄まじい。特に打楽器の好演ぶりは、ヤルヴィが打楽器奏者出身の指揮者ということを差し引いても、充実感にあふれている。サイレンは「ぷい~」と全く想像していなかったとんでもない音色と音量で、これはいったいどうした!どこからこんなサイレンを持ってきたんだ!という信じられない代物。さすがに、ロンドン響やソビ文と比べると管楽器の鳴りがもの足りないが、それでもヤルヴィの絶妙なテンポ感で演奏をぐいぐいと引っ張っていってくれる。合唱の切れ味のなさは残念なところで、「レーニン」も「れ~にぃん」という可愛い感じに。
アシュケナージ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1989.01 Decca
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パリッとした軽やかな響きが何とも楽観的で、ショスタコらしくないと言えばそれまでだが、これはこれで味わいのある一枚。あまりこの曲に暗い政治的なものを求めるのもどうかと思うし、これぐらい明るくていいかもしれない。後半はテンポやリズムがほとんど生きていないが、そのような中でも各楽器とも十分にゆとりのある音色でこのキツイ曲を聴かせ、ロイヤル・フィルってやっぱ凄いな、と思わせる。