交響曲第1番 ヘ短調 作品10
M.ザンデルリンク指揮/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
2017.03.23-24 Sony
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ザンデルリンクの交響曲全集、素晴らしい。2015年から2019年初頭にかけて、1-15番までこれほど近い時期に録り終わっており、録音の水準が整っていることに加えて、首尾一貫とした表現姿勢が読み取れる。だからこそ、1番から15番まで通して聴いてみたいという気持ちにさせられ、15曲まとめてショスタコーヴィチの人生観を味わいたくなる。そのスタートとしての第1番、実に濃密で引き締まった録音であった。全集全般にブレなく言えることだが、メリハリが効いていてダイナミクスが楽しい。そしてドラマチック。弦楽器がギシギシ、ミシミシとリアリティのある演奏と録音。全体的に優しい音色に感じるが安定した管楽器、迫力のある打楽器表現。重厚だが後ろに引っ張られるような重さはない。全集全般に言えることだが、速めに設定されたテンポも実にコントロールされており、演出の効いたアッチェレランドやリタルダンドも見られる。全体的に引き締まった録音が、曲に合っている。メリハリとコントロールの効いた一枚と言える。バーンスタイン、チェリビダッケ、テミルカーノフ、と1番はライブ音源ばかりに注目してきたが、セッション録音(ソニー・ミュージックによれば正確には「優れた音響効果で定評のあるルカ教会とリノヴェーションされて最新鋭のコンサートホールとして生まれ変わったクルトゥーアパラストの2か所でセッションをメインに収録」とのこと)では間違いなく頭一つ抜けたお気に入りの一枚。とにかくワクワクする全集の始まり。なお、ザンデルリンクはベートーヴェンの交響曲全曲録音と同時並行して当全集を録音しており、「ベートーヴェンは西洋音楽の根幹の一つである交響曲を完成させた作曲家であり、一方ショスタコーヴィチは交響曲というジャンルの締めくくりを宣言した作曲家である」とのことで、曲ごとにベートーヴェンとのカップリングで発売された。シンフォニストとしてのベートーヴェンとの対比も面白そうで、同時期に発売されたベートーヴェンの交響曲全集も大変興味深い。
バーンスタイン指揮/シカゴ交響楽団
1988.06/Live Deutsche Grammophon
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バーンスタインとシカゴ響が組んだ伝説ライブ。メインプログラムは7番だが、この1番も圧倒的な存在感を示す必聴の録音。解釈は他の録音とは異なるバーンスタイン独自のロマンティックなもの。2楽章の金管の鳴りがゆとりがあって心地良い。さすがシカゴ響。ピアノも実に安定している。やもすると転びまくる難易度の高い曲ではあるが、アンサンブルも乱れることなく、難なくこなすシカゴのパワーが凄い。打楽器も全般的に硬質で音量も大きめ。ドン!バン!と決まる大太鼓とティンパニが気持ち良いディスク。ちなみに私が初めて聴いた1番のディスクでもあり、大変思い入れ深い。あの頃はまだバーンスタインと言えばウエストサイドとキャンディードの作曲家としてのイメージが強かったが、指揮者としてソニーの5,7,9番を聴いてみたらあまりに感動し、帯の煽り文句(まるで指揮者とオーケストラの両者がこの日のために存在した)に惹かれて当盤も迷わずレジに持っていった記憶がある。
チェリビダッケ指揮/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1994.06.02-03/Live EMI
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まず何よりも注目すべきは、ティンパニ。ペーター・ザドロと思われるが、これは凄い。そのまさに一点しかないタイミング、音色、特徴的なフラ打ち。爆音を出して大騒ぎするタイプのティンパニではなく、確かな技術に裏打ちされた高いセンス。それでいて強い自己主張。ショスタコ1番ということもあり、ほとんどティンパニ中心の曲に聴こえる。オケの中心がティンパニにある。この感覚を味わえる演奏はそう多くはない。打楽器では、他にトライアングルが素晴らしい。ところで、チェリビダッケ晩年のミュンヘン・フィルとの演奏が、このように綺麗な録音で聴けることが素晴らしい。仄暗い中に温かみを感じさせる造形と、豊かで深い響きはチェリビダッケならではのもの。聴き入っているとショスタコじゃない音楽を聴いているような不思議な錯覚に陥るが、これはチェリビダッケがこの曲を自分のものとしている証だ。チェリビダッケにしては普通のテンポだが、流れるようなオーケストラとピアノ、そしてその中心にあるティンパニは一つの世界を作り出している。素晴らしい演奏だ。なお、併録のバーバーの「弦楽の為のアダージョ」が心に沁みる感動的な超名演。「ブラボー」と涙を流しながら言いたい。…が、1番のあとの拍手に収録された間の抜けた歓声には、演奏の余韻を阻害する許し難いものがある。
テミルカーノフ指揮/ソビエト国立交響楽団
1966.12/Live Brilliant
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オランダの廉価レーベル「ブリリアント・クラシックス」からとんでもないBOXが登場だ。その名も「ユーリ・テミルカーノフ・エディション」!テミルカーノフのソ連時代のライブ音源を集めたBOXで、その充実度たるや異常。10枚組で5,500円だったが、1枚でも5,500円以上の価値はあるだろう。その中から交響曲第1番である。この曲に限ったことではないが、テミルカーノフのソ連時代のライブは凄い。本当に凄い。「爆演」とかそういうレベルではない。疾走感も爆発度も尋常ではなく、そのはじけっぷりを讃えて、私はあえてこう呼びたい、「爆走のテミルカーノフ」と!…というわけで、この1番は非常に面白い演奏なのだが、録音の悪さとミスを差し引いてこの位置に収まった。スヴェトラーノフが振るソビエト国立響とはひと味もふた味も違う面白さに溢れている。スヴェトラの持つある種の温かみとか柔らかさ、また重さや暗さというものはない。冷たくはないがもっと洗練された響き、絶妙なバランス感覚、そして何より、脱線してるのにどこまでも真っ直ぐに突き進む爆走列車とでも言うべき圧倒的な推進力を持っていることが魅力だ。弦はガリガリと凄まじい音を出しているし、金管・打楽器は言わずもがな。録音の悪さゆえに木管の響きが遠いのは残念。なお、当ディスクのカップリングの5番は、かの名演81年ライブ。こんなに面白いディスクが他にあろうか。
K.ザンデルリンク指揮/ベルリン交響楽団
1983.06 Berlin
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これは果たしてショスタコなのか!?と思うほど、我々が聴き慣れたサウンドとは異なる重いザンデルリンク風ショスタコ。金管が叫ぶことは決してなく、2楽章の繰り返し後もどんと重くずっしりした音で広がりをみせる。しかし、こうした解釈もありだという説得力に満ちた好演。角はないのに、それでも野暮ったくならないこのパワーは、ザンデルリンクならでは。ショスタコ演奏の一つの完成された姿を垣間みることができる。15番とセットで聴きたい。
コンドラシン指揮/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
1972 BMG/Melodiya
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コンドラシンらしい速めのテンポ設定で、気持ち良いほどの切れ味。理想的なアンサンブルとリズム感。相変わらず録音は良くないが、この演奏が伝えたいものはしっかりと届く。特別に個性的な表現はないものの、スタンダードな演奏として必聴のディスクである。
ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立文化省交響楽団
1984 BMG/Melodiya
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基本的にソビ文のスネアは、スナッピが緩めでばしゃばしゃした音を鳴らしており、節操がないほどに大音量。2楽章はこのコンビに期待する迫力あるサウンドを聴かせてくれるが、細かい部分での縦線が合わないので、やや雑な印象を受ける。全体的には骨太で豪胆なサウンドと説得力のある力強い構成が魅力的。ティンパニのソロは大音量で割れている(T◎T)このデッドな音がたまらんですな。迷いのない大太鼓も素晴らしい。
ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立交響楽団
1976.11.20/Live Brilliant
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ロジェストヴェンスキーによる76年ライブ盤。決して爆演一本ではないのがロジェヴェンの魅力。しっかりとした構成力のある演奏で、ライブだからこその豊かなサウンドを聴くことができる(当時ソ連のスタジオ録音のぎこちない編集ではオケの実力が測れないものもある)。骨太の全集盤と比べて、鋭くスピード感のある演奏で、強烈なアタックと濃い目のはっきりした味付け。ライブならではの熱量を感じることができる。
V.ペトレンコ指揮/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
2009.06.28-29 Naxos
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1976年生まれのペトレンコ。ショスタコーヴィチ演奏史というものがあれば第三世代の指揮者と言っていいだろう。サウンドは軽く、そして機能的で、美しい。もちろんそれは、音楽が軽いというのではない。旧世代が背負っていた重荷を既に降ろしているということだ。ナクソスはスロヴァークで全集を作っているが、2000年代終わりにペトレンコとリヴァプール・フィルによる新たな全集をリリースした。世代を超えたことを現実的に実感する素晴らしいサウンドの全集であって、ショスタコーヴィチの普遍性を世に知らしめる名盤と言えるだろう。サクサクと切れ味の良いサウンド、音は短め、あっさりとしているが鋭くて強い。テンポは基本的には速め。スネアが小気味良くバシバシと決めてくれる。
キタエンコ指揮/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
2004.07.03-07/Live Capriccio
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実に堅実に演奏するキタエンコ。金管低音が強めのバランスながら大変綺麗で、打楽器も伴奏に徹しながらも職人的な仕事を成し遂げている。偶数楽章の炸裂度も強力。テンポ感覚も申し分ない。2楽章再現部コーダの重量感ある音色は素晴らしく、ブーンと空気が震えるこの感覚はスゴイ。特段の個性には欠けるものの、この高音質と完成度には文句を言うところがない。キタエンコ全集を聴き始める最初の一枚としては、十分すぎるほど価値がある。このあとに14もの交響曲が控えているとなれば、わくわくせずにはいられない。子供の頃に玩具を買ってもらうのを待っているような期待感、そんな懐かしい感覚が甦ってきた。
M.ショスタコーヴィチ指揮/プラハ交響楽団
1999.11.30,12.01/Live Supraphon
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マクシムの魅力が存分に詰まった一枚。猛然と迫る1楽章には興奮せざるを得ない。プラハ響のパワーをここまで引き出すマクシムは、やはりソビエト系指揮者としての系譜と考えてよい。強奏部や細かなパッセージは随分と乱れるが、続く楽章も素晴らしい。前面にドンと出てくる圧力には思わずニヤニヤしてしまう。ライブはこうでなくては!個人的には、決して七光り系の指揮者で終わることなく、正当に評価されてほしいと願っているが、父の名が偉大すぎることも確かなのだろう。
ネルソンス指揮/ボストン交響楽団
2018.11/Live Deutsche Grammophon
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ネルソンス交響曲全曲録音プロジェクトから。14番、15番との組み合わせ。オーケストラの抜群のサウンドと優秀録音によって現代に甦るショスタコーヴィチの交響曲シリーズは、その質の高さに発売の度に驚かされるが、当盤も素晴らしい演奏。ライブ録音なのだが、瑕もなくバランスも良い。ライナーには14番演奏直後の写真が掲載されているが、ステージ上にはもの凄い数のマイクが立っている。どこまで鳴るのだろうというゆとりのある響きで、ダイナミクスレンジも広く強奏部分の豊かさは比類ない。トロンボーンやチューバ、ファゴットのぶりぶりと鳴る低音が素晴らしく、濃密なサウンドを届けてくれる。全体的に遅めのテンポでじっくりと聴かせるが、1楽章はどこかしっくりとこない居心地の悪さを感じる。しかし2楽章はさすがとしか言いようのない技術とダイナミクス、3楽章の美しさも筆舌に尽くしがたい。大太鼓の深い響きは、この録音の良さを象徴しているようだ。大太鼓がドンと鳴って管楽器のぶりぶりと弦楽器の底からの支えがあれば、これはもう極上のサウンドである。
スクロヴァチェフスキ指揮/ハレ管弦楽団
1996.11.01 Halle
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豊かな響きが非常に美しいハレ管。各楽器のソロもとても良く、切れ味と深い味わいが同居するスクロヴァチェフスキとハレ管のコンビによる素晴らしい演奏。オケは細部に至るまで技術的に安心したものがあり、また、表情付けも若さと爽やかさ、エゴイスティックな作曲家の個性がほど良く混ざり合って美しい仕上がり。落ち着いたテンポ感だが弛緩することなく、若きショスタコーヴィチのこの曲が先哲の一流の交響曲に仲間入りしたことの説得力を感じさせてくれる。なお、私は当盤を初めてタワーレコードの試聴機で何気なく聴いてみて、「これは早く自宅のオーディオで聴かねば!」と思い帰宅した。良い音楽はピュアオーディオで空気と共に味わいたい。
ハイティンク指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
1980.01.15-16 Tower Records/Decca
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西側で初めて全集を完成させたハイティンクによる第1番。80年の録音だがその切れ味はしっかりと収められており、ロンドン・フィルの豪華なサウンドを聴くことができる。ハイティンクらしい生真面目な完成度で、何か口を挟む余地などない。
バーンスタイン指揮/ニューヨーク・フィルハーモニック
1971.12.14 Sony
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シカゴ盤を取るか、ニューヨーク・フィル盤を取るかは好みの分かれるところだが、どちらも素晴らしい演奏。手兵ニューヨーク・フィルとの演奏は、しっかりと地に足の着いた堅実な演奏でありながら、極めてバーンスタインらしいパッションがある。録音が古いせいもあるだろうが、ざらざらとした手触り、ギラギラとした攻撃性が魅力。ドン!バン!とわかりやすく決めてくれるバーンスタインのエンターテインメント性は好きだ。とても聴きやすく、また万人にオススメできる一枚。なお、当盤はニューヨーク・フィルとの1,5,6,7,9,14番をまとめた4枚組の仕様で、59年から76年までのバーンスタインのショスタコーヴィチへのアプローチを堪能できる貴重なBOX。
デュトワ指揮/モントリオール交響楽団
1992.05.15,22 Decca
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デュトワにショスタコーヴィチというのもあまり似合わなそうな気もするものだが、この第1番に関してはデュトワの持ち味が十分に生かされた名演となっている。大宅緒氏によるライナーには、1991年に来日したデュトワにインタビューしたエピソードが語られている。「交響曲では、まず第1番と第15番を録音したいと思っています。この組み合わせは、まだ誰もやっていませんから。…その結果次第で第13番を考えています」とのこと。今日では1番と15番の組み合わせは珍しくないが、曲の位置付けとしても、コンサートのプログラム上の時間構成上も実にしっくりくる。モントリオール響も、シカゴ響やロシア・オケとはまた違ったシャープで強烈な音を聴かせる。メリハリがあり、決めどころも外さない。勢いも十分にある。そして、何よりも綺麗。キラキラと音楽が流れていく。こういうショスタコーヴィチも、間違いなく魅力の一面なのだ。そういうことに気付かせてくれる。デッカの録音も非常に良い。…デュトワとモントリオール響のコンビ(デュトモン)、大好きです。
井上道義指揮/サンクトペテルブルク交響楽団
2007.11.03/Live Octavia
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日比谷公会堂での交響曲全曲演奏プロジェクト初日のコンサート。1番、2番、3番、という前代未聞のプログラム。これぞ伝説の始まりに相応しい。ペテルブルク響は無骨な響きで、やや遅めのテンポと相俟って重さを感じさせる。天井以外の反響板をあえて取っ払って、石、コンクリート、鉄の壁面を露出させた日比谷公会堂のビジュアルは圧巻で、デッドな響きが格別のサウンドをもたらす。巨大な客席も2階席が多く空間が分断されており、この日比谷公会堂独特の響きに、ショスタコーヴィチの交響曲がこれぞという適合を見せており、このプロジェクトを会場で味わうことのできた幸運と感動は忘れようがない。打楽器の響きが直接的で、残響の中に埋もれないのは本当に素晴らしいこと。スネア、銅鑼の響きに惹かれる。井上道義は後年も1番の演奏を披露しておりTV放送でも録音を聴く機会があるが、ますます充実していることは間違いない。
ノセダ指揮/ロンドン交響楽団
2019.03.27-28/Live LSO
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ロンドン響の抜群のサウンドを持って軽めのアプローチで機能美を堪能できるノセダのショスタコーヴィチ・シリーズから。ぜひこのまま全曲録音を完遂してほしいと思う(ロンドン響にとっても15曲全てを同じ指揮者で収めるという素晴らしい偉業になるだろう)。この軽さと機能美が生きるのが1番だろう。ショスタコーヴィチにはある種のくどさ(フェドセーエフなど)も中毒的な魅力があるが、もっと機械的でクールな演奏も抜群に栄えるということも我々は知っている。ロンドン響でこうしたクールな演奏を聴かせてくれたら、それはもう満足なのである。
ヒメノ指揮/ルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
2016.06 Pentatone
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とてもバランスの良い演奏で、色彩豊かに各楽器が鳴り響く。SACDの高音質とダイナミクスレンジの広さもあり、非常に充実した一枚。グスターボ・ヒメノはスペインの指揮者で、コンセルトヘボウ管の元主席打楽器奏者。あの名門オケの首席奏者とあって、打楽器奏者としての実力は相当に高いのだろう。指揮者としてもリズム感に優れているのは演奏にも表れている。同じ打楽器奏者出身のネーメ・ヤルヴィと比べて、打楽器が突出して目立つような過剰な演出もなく、各楽器が全体のアンサンブルの中でバランス良く生かされている。なお、このディスクは併録にスケルツォや主題と変奏などの初期管弦楽作品が収録されており、ロジェストヴェンスキー以来のアプローチ、そして高音質とあって非常に興味深いアルバムとなっている。
V.ユロフスキー指揮/ロシア・ナショナル管弦楽団
2004.10 Pentatone
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ロシア・ナショナル管のシリーズから。ウラディーミル・ユロフスキーによる1番と6番。SACDの高音質と、安定した演奏で、この曲の真価を聴かせてくれる。オケが硬質で、鋭く切り込んでくるような熱意が素晴らしい。ロシア・ナショナル管の打楽器はとても好演しており、スネアは個人的にも好みのサウンド。コロコロと目まぐるしく曲想が変化する同曲において、せわしなく動き回る打楽器の役割は大きなもの。ミハイルは交響曲の録音が知られていないが、こうして息子が積極的に取り組んでいるのはとても嬉しく思う。
ヤンソンス指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1994.06.15-20 EMI
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ベルリン・フィルによる贅沢な第1番。実に充実した響きで、ベルリン・フィルの実力とヤンソンスの表現志向がマッチしており感嘆する。サウンド、テンポ、リズム、細部のアンサンブルを取ってみても、この構築力、しっかりと整えられた見栄えの良さは素晴らしく、オススメの一枚だ。
ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立交響楽団
1962.03.23/Live Yedang
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ロジェストヴェンスキーによる62年ライブ盤。イエダンから。ロジェヴェンの3種の1番では最も古い録音。録音状態はそれほど悪くないが、1楽章に音飛びがある。帯に書かれたレーベルの説明によると、「ロシア国営テレビラジオ局の資料保管庫に所蔵された録音物で、当該アーチストの政治的事由で旧ソ連当局によって公開禁止されたまま陽の目が見られなかった名作群も数多く含まれています。」とのこと。全集盤、76年ライブ盤には完成度という点では劣るが、国立響の荒い響きと勢いが魅力的。3-4楽章ブリッジのスネアをカットしている。
アシュケナージ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1988.11 Decca
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カップリングの6番同様、極めてオーソドックスな解釈。相変わらずロイヤル・フィルのホルンには感心してしまうが、全体的には力強いというよりも綺麗な方向にまとめ上げられている。ショスタコらしい毒気があまり感じられないが、まだ作品番号10番。サワヤカな青春時代のショスタコーヴィチには、こういう表現もよいだろう。
N.ヤルヴィ指揮/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
1984.08 Chandos
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録音が良く、大太鼓やティンパニなどの低音をきちんと拾っているのが嬉しい。意外にも重厚感あるサウンドで、ヤルヴィの疾走感あふれる他の録音とはやや異なる印象だが、表現そのものはいつものヤルヴィで、良い意味で表層的に整ったもの。
ショルティ指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1991.09.18-19,21 Decca
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オケはさすがに上手いし、パワーもある。確実なアンサンブルの造形。歯切れ良くまとまった演奏で、1番のどこか軽い曲想や小ぢんまりした雰囲気を巨匠の手腕でクラシカルなサウンドに仕上げている。一方で、ショスタコーヴィチの前期交響曲に漂う若さや危なっかしさは影を潜めており、それが魅力に欠けるとも感じられる。
バルシャイ指揮/ケルンWDR交響楽団
1994.09.30-10.3 Brilliant
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暴力的、大げさな表現を避けて、きちんと綺麗に整理された演奏。曲そのものが持つ瞬発力をそのまま生かした名演と言える。しっかりと息を合わせた細部まで丁寧な演奏はバルシャイ全集らしい特徴そのものだが、一方で、この1番については、こうしたアプローチは曲想からも地味と言えば地味か。
ストコフスキー指揮/ニューヨーク・フィルハーモニック
1960.03.05/Live Memories Reverence
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全体的には落ち着いたテンポと丁寧な演奏で、ストコフスキーのライブ録音から想像されるどこかせっかちな印象はない。じっくりと緻密に練り上げられた構成であり、古い録音ながら充実したサウンドを聴くことができる。録音にはさすがに難はあるが、当時モノとしては聴きやすく、ストコフスキーの音楽性を味わうことができる。