交響曲全集[編集中]

交響曲全15曲を収録した「全集」の存在は、ショスタコーヴィチを聴く上で非常に重要なもので、一人の指揮者による解釈で15曲を聴くことで、その表現と世界観が見えてくる。ベートーヴェン以降の作曲家としてはかなり多い全15曲、一度に聴くことでショスタコーヴィチの人生を辿ることができる。ソビエトを巡る世界史の様相とクラシック音楽の演奏、録音史と共にあるショスタコーヴィチの交響曲演奏の歴史が、ボックスセットに収められている。分厚い化粧箱から簡易ボックスまで、同志諸君のCDラックを彩るだろう。録音(最終録音年)順に紹介する。

初のショスタコーヴィチ全集にして至高の金字塔!

コンドラシン指揮/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

1962-1975 BMG/Melodiya

('◎')*4.67

1960年代から70年代に掛けてのコンドラシン全集は、初の全集にして至高の金字塔。ショスタコーヴィチ存命中の唯一の全集でもあり、リリースから今日までショスタコーヴィチ演奏のあるべき姿を提示し続けている。録音の質は当時ソ連のもので、良くも悪くも一直線。難もある。しかし世界初という歴史的価値以上に、コンドラシンが示した確かなショスタコーヴィチ像は、後の全ての演奏家、そして愛好家の基準となっていることだろう。コンドラシンの速めのテンポによる強烈なサウンドは、ショスタコーヴィチのイメージそのものであり、我々が「ロシア・オケ」と聞いて思い浮かべるサウンドの理想的な姿がある。歴史ある録音だけあって、分売を含めて何度も形を変えて発売されており、ここで紹介したいのはBMG盤とメロディヤ復刻盤。BMG盤は、紙ボックスの中に三つのプラケース、全10枚が収められている。一柳富美子先生による解説、対訳歌詞を掲載した72ページものライナーの情報量が素晴らしく、ショスタコーヴィチ理解のための基本テクストとして手元に置きたい。2006年の本家メロディヤ復刻盤は簡易的な紙ボックスだが、コンドラシンのディスコグラフィーでも貴重かつ名演である「我が祖国に太陽は輝く」、「ステパン・ラージンの処刑」、ヴァイオリン協奏曲第2番、「十月革命」を収録している。

西側初のショスタコーヴィチ全集!東西冷戦時代のクールな新解釈

ハイティンク指揮/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団,アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

1977.01.14-1984.10.15 Tower Records/Decca

('◎')*4.57

今や西側・東側という文脈で語られることのなくなったショスタコーヴィチ演奏だが、70年代後半から80年代半ば、これも今は偽書とされ話題に上がらなくなったヴォルコフ『ショスタコーヴィチの証言』(1979年) の登場は、ショスタコーヴィチの解釈においてセンセーショナルを巻き起こしたことは間違いないだろう。その渦中、西側の指揮者、オーケストラがショスタコーヴィチの全曲を録音するということは、世界的な注目と商業的な勝算もあってのことだったのだろう。ソ連当局のお抱え作曲家としてクラシック音楽界で異端視され、あまり近付こうとされなかったショスタコーヴィチを、ハイティンクはマーラーに続く現代のシンフォニストとして当全集で紹介した。ハイティンクの知性的なアプローチとロンドン・フィル、コンセルトヘボウ管の抜群の技術力によって、ショスタコーヴィチを甦らせた功績は大きい。「黄金時代」、「ロシアとキルギスの民謡の主題による序曲」、「ユダヤの民族詩より」、「マリーナ・ツヴェターエヴァの詩による六つの歌曲」に加え、タワーレコードによるリマスタ盤はチェロ協奏曲第1番を追加収録している。豪華な分厚い化粧箱に収められた初期の国内盤は、「交響曲全集」という重さと厚みを持った荘厳なもので、学生時代にこれを初めてCDラックに収めたときは感動したものだ。

初の全曲デジタル録音!ソビエトの威信を懸けた超強烈な文化省響サウンド!!

ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立文化省交響楽団

1983-1986 BMG/Melodiya

('◎')*4.93

ソビエト国立文化省交響楽団は、放送オーケストラを前身としてサモスード、アーロノヴィチ、マクシム・ショスタコーヴィチが指揮者を務めてきたが、ソ連国内の音楽家の亡命が相次ぐ中で、当局がロジェストヴェンスキーを国内に留まらせるために1982年に再編成したと言われるオーケストラ。文化省の名を冠し、ソ連の威信を懸けて名手を集めロシア作曲家の演奏や録音に貢献した。ソ連崩壊と共にロジェストヴェンスキーは辞任、その後は合唱団と合併してロシア・ステート交響楽団と改名、ポリャンスキーが率いている。歴史上のごく短い期間にソ連の運命と共にあった特殊なオーケストラと言える。この稀有なオーケストラが奏でるショスタコーヴィチは、全集史上初のデジタル録音技術が用いられており、どこか人工的な音色と共に、冷戦時代のフィクションで見られた無慈悲なマシーンのように強靭なソ連のイメージを彷彿とさせる。事実、人間業とは思えない超強烈なフォルテシモの連続に、これはオーケストラではない別の何かを聴かされているのでは、という気になってくる。BMG盤は演奏機会の極めて少ない貴重な曲まで含む多数の管弦楽曲、バレエ音楽、映画音楽、声楽曲等を収録した驚愕の14枚組となっており、まさにロジェストヴェンスキーの集大成。ショスタコーヴィチのボックスとして頂点と言って過言ではない。当WEBサイトの推薦度は4.93と最も高い。東京芸術劇場の楽屋でBOXジャケットにサインをいただいた。

クラシック音楽の百科事典、廉価レーベルのナクソス全集!

スロヴァーク指揮/スロヴァキア放送交響楽団

1986.11.22-1990.01.26 Naxos

('◎')*2.64

四つ目の全集を完成させたのは、意外にもナクソスであった。廉価レーベルであるナクソスが我が国のレコード店を席巻していったのはいつ頃だっただろうか。レコード店の一画を青と白の統一されたデザインのCDが埋めていき、「クラシック音楽の百科事典」を目指すレーベルのコンセプトそのままに、有名曲から一部マニアにしか知られていない曲まで、1枚1,000円で我々は手軽に入手することができるようになった。早々に出そろったショスタコーヴィチの交響曲は全てスロヴァークによるもので、全集としてボックス化もされた。オーケストラの技術的な不足が著しく、高度な演奏技術を要するショスタコーヴィチの交響曲においてはそもそも演奏が成り立っていない箇所が目立つ。ナクソス初期の典型的な「安かろう悪かろう」を地で行くクオリティながら、スロヴァークの渋く丁寧なアプローチはところどころで光る。ナクソスでペトレンコ全集が完成したことと、バルシャイが私財を投じてまで廉価で普及させたブリリアントの全集が存在するため、リリース当初の価値は失われている。店頭では見かけなくなり、このまま消えてしまうのかと思ったときに、80年代後半の東欧のオーケストラが残したショスタコーヴィチ全曲演奏の記録に、一周回ってなぜか愛着が沸いてくる。

ブルックー、マーラーの全集で時代を築いたインバルが挑むショスタコーヴィチ!初の国内レーベル全集

インバル指揮/ウィーン交響楽団

1990.01.30-1993.06.13 Denon

('◎')*3.50

全集と言えばコンドラシン、ハイティンク、ロジェヴェン、という時代、ブルックナー、マーラーの格調高い全集によって多くの熱烈な信奉者を生んだインバルが、続いて取り上げたショスタコーヴィチ全集。デノンの優秀録音による初の国内レーベル全集ともなった。90年代初頭に録音され、東西冷戦の大きなうねりがソ連崩壊という結末を迎えた頃、二分された世界が混沌に帰すと共に、熱狂を失った味気ないサウンドが今こそリアルに聴こえるだろう。ハイティンクともアシュケナージともまるで異なるこの客観性は、冷めているというよりは、形式的。この表面的でつまらないサウンドが今まで気付かなかった魅力を聴かせ、ハッとさせられるのも事実。後年の都響やSWRとの交響曲録音も悪くはないが、全集として一貫したサウンドを聴くことのできる価値は高い。

時代の生き証人ロストロポーヴィチの執念!冷戦末期からソ連崩壊後の亡命西側録音

ロストロポーヴィチ指揮/ワシントン・ナショナル交響楽団,ロンドン交響楽団,モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

1973.02,1988.01-1995.01 Warner/Teldec

('◎')*3.71

 

レーベルを跨ぐ全曲録音!スピード!!リズム!!!

N.ヤルヴィ指揮/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団,エーテボリ交響楽団

1984.08-2000.08 Chandos/Tower Records/Deutsche Grammophon

('◎')*4.73

 

バルシャイが私財を投じて完成!破格の超廉価、ショスタコーヴィチを人類史に刻むための記録!!

バルシャイ指揮/ケルンWDR交響楽団

1992.09-2000 Brilliant

('◎')*4.21

 

初のSACD全集!重低音が鳴り響く!!

キタエンコ指揮/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団

2002.07.16-2004.07.17 Capriccio

('◎')*4.50

 

多数のオーケストラで挑む多彩なショスタコーヴィチ全集!

ヤンソンス指揮/バイエルン放送交響楽団,オスロ・フィルハーモニー管弦楽団,フィラデルフィア管弦楽団,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団,ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団,サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団,ピッツバーグ交響楽団,ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

1988.04.22-2005.11.12 EMI

('◎')*3.71

 

実子マクシムによる壮絶なライブ全集!!

M.ショスタコーヴィチ指揮/プラハ交響楽団

1995.02.01-2006.03.08-09 Supraphon

('◎')*4.00

 

室内的アプローチの新境地!

コフマン指揮/ボン・ベートーヴェン管弦楽団

2003.03.28-2006.05.18 MDG

('◎')*4.00

 

約20年!!我々は全集の完成を待っていた!

アシュケナージ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団,サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団,NHK交響楽団

1987.05-2006.06.29 Decca

('◎')*3.79

 

ライブ収録メインの華やかなSACD全集!

カエターニ指揮/ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団

2000.12-2006.06 Arts

('◎')*3.64

 

超高音質の圧倒的ダイナミクスレンジ!!全集で全曲SACD化

ウィグレスワース指揮/BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団,オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団

1996.12-2010.10 BIS

('◎')*4.29

 

生誕100周年を超えて!新時代のスタンダード!!

V.ペトレンコ指揮/ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

2008.04.22-2013.09.29 Naxos

('◎')*4.57

 

巨匠タバコフが奏でる無骨で土臭いサウンド!

タバコフ指揮/ブルガリア国立放送交響楽団

2009.03-2015 Gega New

('◎')*3.73

 

日比谷公会堂全曲演奏プロジェクト!前人未踏の歴史的演奏!!

井上道義指揮/サンクトペテルブルク交響楽団,千葉県少年少女オーケストラ,東京フィルハーモニー交響楽団,新日本フィルハーモニー交響楽団,名古屋フィルハーモニー交響楽団,広島交響楽団

2007.11.03-12.09,2016.02.13 Octavia

('◎')*4.60

 

新生メロディヤが繰り出す原色のショスタコーヴィチ!!

スラドコフスキー指揮/タタールスタン国立交響楽団

2016 Melodiya

('◎')*4.14

 

演奏史は継承される!次世代指揮者のマイルストーン!!

M.ザンデルリンク指揮/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

2015.03.13-2019.02.15 Sony

('◎')*4.64

 

演奏史は継承される!次世代指揮者のマイルストーン!!

ネルソンス指揮/ボストン交響楽団

2015.04-2023.05 Deutsche Grammophon

('◎')*4.43