映画音楽「馬あぶ」作品97/97a

クチャル指揮/ウクライナ国立交響楽団

2001.06.01-08 Brilliant

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オケはパワー不足だが、ショスタコーヴィチの持つスピード感が最も良く表れた録音であり、志にあふれた演奏。旧ナクソス盤に比べてかなりの快速テンポで、そのためか若干軽くなってしまっているが、この押しの強さ、力強さはスゴイ。強烈なブラスと打楽器でガンガン攻めまくる姿勢はブラボーだ!気合いの入ったクチャルの唸り声が何箇所か聞こえる。「ふん!」とか。ソ連の指揮者を思い起こさせるところもしばしばで、そういうのが好きな人には嬉しい演奏。「痩せたスヴェトラ」、「カルシウム不足のロジェヴェン」と言っておく。クチャルの録音のリリースには今後も期待している。やはりこの曲には快速なテンポと、アタックの効いた明瞭な響きが求められる。その上、ブリリッと品のない(良い意味です)強引な押しがあれば最高だ。しかしこの3枚組のクチャル管弦楽曲BOXだが、交響曲からイメージするショスタコーヴィチとは別の一面をしっかりと堪能させてくれる素晴らしいディスクよ!もうね、クチャル先生はナクソスでもブリリアントでも、早く交響曲全集を出してください、本当に!1,6,9番辺りはベストになるだろうし、その機能性から2,3,4,10,11,12番は抜群に強烈な演奏をしてくれると思うんだがなぁ。クチャル先生のファンにならざるを得ない素晴らしい音盤。

フェドセーエフ指揮/チャイコフスキー記念交響楽団

2000.06.06-10 Saison Russe

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フェドセーエフ。フェドセーエフである。…しかし、この録音は凄まじく充実した演奏。2000年代の録音であるわけだから、そりゃ録音は素晴らしいんだが、シナイスキー盤よりも理想的な音色とテンポ。これでもう少し尖ってみせれば最強の録音だぞ、これは。これまでのところ、どうにもフェドセーエフという指揮者は苦手であった。このようなサイトを運営し多種の録音を聴いているからといって、旧ソ連・ロシア系の指揮者なら何でもウェルカムというわけでは当然ないわけだが、ふむ、フェドセーエフやゲルギエフは交響曲を聴く限りではどうにも共感し難く、避けてきた指揮者であった。ハチャトゥリアンの「レズギンカ」ならフェドセーエフの録音は誰もが通る道だが、ショスタコーヴィチはハチャトゥリアンとは違うわけで。しかし、このフェドセーエフの「馬あぶ」ですよ!とんでもない充実度ですよ!まいった。抜粋なのは惜しいが、主要な曲は入っている。特に終曲なんぞね、もう「ファイナルファンタジー7」の「セ・フィ・ロス!」なんか代わりに「馬あぶ」流しなさいよと。しかも、併録の「条件付きの死者」がまたスゴイこと。今のところフェドセーエフで心惹かれたディスクはこれだけだが、その破壊力たるや凄まじや。

M.ショスタコーヴィチ指揮/ロンドン交響楽団

1990.08 Collins

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「馬あぶ」の組曲全曲版となるとなかなか録音も多くはないが、このマクシム盤は一つの到達点を示しているだろう。序曲や終曲は、ぐりぐりと脳みそに突っ込んでくるドリル的演奏。かと思えば、序奏はこれでもかという遅いテンポでド演歌的。非常に疲れる演奏である。一映画音楽を離れた奇妙な解釈ではあるが、それが良い味を出している。

E.ハチャトゥリアン指揮/ソビエト国立キネマトグラフィ交響楽団

1962 EMI

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快活でアタックの効いた巣晴らしい演奏を聴かせてくれるエミン・ハチャトゥリアン。バレエ組曲では爽快なサウンドで群を抜いた録音を残してくれたが、「馬あぶ」も実に気持ちの良い演奏。テンポ設定やスピード感はショスタコーヴィチを演奏するにあたって重要な要素だが、これ以上ないと言えるほどの構築で、CDを聴きながら思わず笑みが漏れた。難点は録音の質と薄いオケ。キネマトグラフィ響は、文化省の管理下にある映画専門のオーケストラのようだ。文化省響とは異なる。

グリン指揮/ベルリン・ドイツ交響楽団

1988.11-12 Capriccio

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ファースト・チョイスにはお薦めの、全体的にまとまった「馬あぶ」像を見せてくれる演奏。軽めの音だがしっかりと鳴らして、強奏部では苦しい叫び声のように聴こえる箇所も。オケ(または録音)は残念ながら薄めだが、それも当時の映画音楽というジャンルにおいてほとんど障壁はないと思える。なお、オケ名は日本語盤のジャケットやライナーにはベルリン放送交響楽団とあるが、カプリッチオの「MOVIE MADNESS」には独名Radio-Symphonie-Orchester Berlinとの表記であり、そうであれば西側のベルリン・ドイツ交響楽団と思われる。それにしても東西ベルリンのオケ名称は英訳や和訳したときに混乱が生じる。

クチャル指揮/ウクライナ国立交響楽団

1995.02 Naxos

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ナクソスをあなどってはいかん!ショスタコのマイナーな名曲まで揃えるマニアックなレーベルである。クチャルって誰?とかウクライナ響って何?とか言う前に、ぜひこの演奏を聴いていただきたい。併録の「五日五夜」も実に良くまとまった演奏である。「馬あぶ」はショスタコ映画音楽の中でも録音の多い方だが、この盤はかなり好きだ。確かに序曲や情景、終曲などでは楽器が鳴りきっていないし、迫力にも欠ける。しかし、全体を通して丁寧に愛を込めて(?)演奏されている。特に好きなのは序奏。この比類なき恥ずかしい青春音楽を、ここまで柔らかく歌うとは。切ない。

シナイスキー指揮/BBCフィルハーモニック

2003.04.08-09 Chandos

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新しくて優秀な録音のせいもあるだろうが、深い響きが何とも違和感あるほどカッチョイイ。フェドセーエフと比較しても面白いだろう。スネアも胴の響きがちゃんと聴こえてくるようで、ショスタコ映画音楽へのイメージがちょっと変わる。BBCフィルはとても上手なオケで、鳴りも安定しているしバランスも良い。出るところは出るし、歌うところは歌う。こういう種類の演奏で、もっとショスタコ映画音楽を録音してもらいたいなと思う。もうシナイスキーは「ショスタコーヴィチ映画音楽全集」でも出してほしいぐらいだ。34曲。

ソンデツキス指揮/リトアニア室内管弦楽団

1995 Cugate

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1995年の録音とのことだが、ソンデツキス追悼によるCDリリース。「馬あぶ」のCD自体が珍しいが、スヴィリドフの映画「吹雪」とのカップリングとのことで、ソビエト映画ファンにはたまらない一枚であろう。「馬あぶ」は序曲の冒頭部分でのまったりとした感じに違和感を覚えるものの、全体的にはテンポにメリハリがあり、速いのと遅いのと極端な味付け。スネアがガシガシと主張する面もあるが、録音の平べったさもあってオーディオ的な魅力に欠ける。「可もなく不可もなく」ではなく「可もあり不可もあり」で、実のところ魅力的な録音。薄っぺらい録音と、これでいいのか(情景の最後はこれでいいのか!?)という金管はぜひ聴いてもらいたいが、…好きです。

セレブリエール指揮/ベルギー放送交響楽団

1987 Warner

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セレブリエールの映画音楽集から。とてもよくまとまった聴きやすい一枚。音は軽めで、音楽の作りもシリアスになりすぎずに心地良く聴くことができる。テンポは各曲とも遅めに設定されているが、後ろに引っ張られるような重苦しさはなく、軽やかで華やかに全曲を演奏している。この映画音楽集は長らく入手困難だった録音を含めて全8曲(「馬あぶ」、「ピロゴフ」、「ハムレット」、「リア王」、「五日五夜」、「ミチューリン」、「ベルリン陥落」、「黄金の山脈」)を収録しており、ショスタコーヴィチの映画音楽を聴くにあたってとても貴重なディスク。

シャイー指揮/フィラデルフィア管弦楽団

1995.12.7,9 Decca

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全曲版からの抜粋ということで13曲。珍しい曲も聴くことができる一方、聴き慣れた曲が入っていないという不満も。下記のフィッツ=ジェラルドの復元版との関係はわからないが、アトヴミャーン編曲版とは明らかに異なるアレンジで面白い。演奏はさすがのひと言で、フィラ管の煌めく音色が素晴らしい。「馬あぶ」は映画音楽だが、「フィルム・アルバム」ではなく「ダンス・アルバム」に収められている。

フィッツ=ジェラルド指揮/ドイツ・ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団

2017.03.21-24 Naxos

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指揮者による復元スコアからの全31曲。初の全曲版であるが、アトヴミャーン版に慣れ親しんだ耳には思わず戸惑いを覚える(鐘!?オルガン!)。資料的価値は高いものの、管弦楽曲として聴くならば、多数の名盤がある組曲版がいいだろう。却ってアトヴミャーンの仕事ぶりも感じることになる。テンポが速すぎて音楽が軽くなりすぎていることも魅力を削いでいる原因の一つか。マクシムのド演歌的な演奏で「行けー!」と心の中の叫ぶあの興奮は求められない。一方、パイプオルガンが全編にわたって印象的で、中盤にはバッハのロ短調ミサの最終曲がコーラス入りでそのまま登場する。映画未使用曲として、「告白」の題で序奏のオルガンバージョンが収録されている。