タヒチ・トロット 作品16(ユーマンス)

ロジェストヴェンスキー指揮/BBC交響楽団

1981.08.14/Live BBC

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この曲の成り立ちは非常に興味深い。ヴィンセント・ユーマンスというアメリカの作曲家らによる合作ミュージカル『ノー・ノー・ナネット』の一曲「二人でお茶を」が原曲。映画化もされた人気作のようで、スタンダードなジャズ・ナンバーだったとのこと(ロシアには「タヒチ・トロット」の題で入ってきたようだ)。興味深いのは、若きショスタコーヴィチと指揮者ニコライ・マルコとの賭けのエピソード。1927年10月より前ということなので、20-21歳頃のことである。マルコに「1時間以内にオーケストレーションできたら、演奏会で取り上げる」として1回だけレコードを聴かされたショスタコーヴィチが、わずか45分でそれを完成させたというのだ。ショスタコーヴィチの天才ぶりを表すエピソードである。さて、同曲の録音はいくつか知られているが、このロジェストヴェンスキーのライブ盤を一番に推したい。聴衆と一体となったかのような温かい雰囲気を感じられ、音楽の楽しさ、醍醐味を味わうことができる。お茶目な曲想とそれを楽しんで振っているロジェヴェン、そして聴衆。会場の様子が想像できるような理想的な演奏である。

ロジェストヴェンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1979 BMG/Melodiya

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ロジェストヴェンスキーとレニングラード・フィルによる演奏。幾分、硬質な響きが当時のソ連オケらしさを持っているが、この洒脱なアレンジ曲をとても楽しく聴かせてくれる。カツカツと決めてくれるスネアが心地良い。

N.ヤルヴィ指揮/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

1987.04.14-17 Chandos

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豊かなサウンドとシャンドスらしいシャキシャキとした録音で、この曲の決定盤と言っていいのではないかと思う。木琴、グロッケンシュピール、トライアングル、チェレスタ辺りの響きは、いかにもショスタコーヴィチらしい。付点音符も楽しく、どこか切なさが漂うことも含めて、まったくもって素晴らしい演奏。

シャイー指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

1981.04-05 Decca

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シャイーの「ジャズ・アルバム」から。素晴らしいコンセプト・アルバムで、この3部作(ジャズ・アルバム、ダンス・アルバム、フィルム・アルバム)はショスタコーヴィチの魅力を世に伝える傑作音盤だと思う。意外と81年という古い録音だが、デッカの煌びやかな録音でキラキラ感は抜群。同シリーズのコンセプトをしっかりと表現している。この曲に何を求めるのか、ということになろうが、チープさや切ない感じを求めると、このシャイー盤はもっと綺麗系。ロジェヴェンと聴き比べると面白いだろう。

スローン指揮/ベルリン放送交響楽団

2004.09.28-10.02 Capriccio

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SACDで聴くタヒチ・トロット。このアルバム全般に言えることだが、サウンドが温かく深みがあり、優しい。もったりとしたテンポだが、高音質の録音と温かいサウンドによって、ロジェストヴェンスキーに聴き慣れた耳に別の魅力をもたらしてくれるディスク。

ヤブロンスキー指揮/ロシア国立交響楽団

2001.10 Naxos

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このアルバムに収められているボルトやジャズ組曲と同様、凡庸な演奏ではあるのだが、その優しい曲作りには非常に好感を抱く。かなりゆったりとしたテンポで、まろやか。脱力して、のんびりと聴きくことのできる演奏。まったりとお風呂にでも入りながら聴きたい。なお、オケはスヴェトラーノフで知られる国立響。

ヤンソンス指揮/フィラデルフィア管弦楽団

1996.03.8,9,11 EMI

選外だが、フィラデルフィア管の素晴らしいサウンド、そして小気味良いアンサンブルが美しい一枚なので紹介する。遊び心のあふれた演奏で、抜群の技術を持ったオーケストラがこうした軽音楽的なクラシック音楽を録音しているのは面白い。選外としているのは、サクソフォンの追加をはじめいくつかのアレンジが加わっており、実際のところ効果的ではあるのだが、いや、そこはやはりこの曲の編曲経緯(ニコライ・マルコとの賭け)からも、ショスタコーヴィチのオリジナル編曲版を重視するべきであろうということで、選外とした。