祝典序曲 作品96

N.ヤルヴィ指揮/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

1987.04.14-17 Chandos

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理想的な素晴らしいテンポとリズム、ヤルヴィに期待する全てに応えてくれるようなディスク。爽快な快速テンポで、ヤルヴィの面目躍如といったところだが、力強く濃厚な響きも魅力的で、祝典序曲というこの多数の録音があふれる有名曲において間違いなく決定盤と言っていいだろう。祝典序曲にはソビエト勢による素晴らしい演奏が残されており、ベストCDを選出するには悩ましいほど候補のディスクがあるのだが、当盤はスタジオ録音で頭抜けた特筆すべき名盤であり、ショスタコーヴィチの管弦楽曲の基準となるような一枚。交響曲でも名演揃いのヤルヴィだが、管弦楽曲の楽しさも比類ない。切れ味のある管楽器が魅力であることはヤルヴィとスコティッシュの組み合わせには間違いないが、打楽器のギンギラした感じの主張がとてもよく合っている。「これだ!」という感じの融合具合。打楽器って管楽器だったのだろうか、とか。私が思う素晴らしいパーカッションというのは、やはり管や弦と対等な感じで混ざっていく「音の進化」のようなイメージ。トライアングルが金管楽器と混ざったときの響きは素晴らしいし、木琴が木管楽器と混ざったときの響きも素晴らしい。ところで、当サイトの再構築に当たり、祝典序曲を聴き直してみたのだが、10枚聴いても1時間。何周も祝典序曲ばかり聴き続け、スコアも読んで、スタジオ録音からライブ録音、ソビエトから西欧、アメリカまで、旅行のような楽しい体験だった。なお、やはり私が好きな演奏は6分には収まっているようで、ヤルヴィで5分52秒。

ロジェストヴェンスキー指揮/モスクワ放送交響楽団

1972.04.11/Live Brilliant

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ロジェストヴェンスキーの魅力が全開にあふれた演奏で、1985年のロンドン響とのライブもあわせて、この曲がロジェヴェンによって素晴らしい演奏効果を発揮する曲であることがわかる。ロシア臭さというか、ソ連の響きを味わいたいならこの一枚だと思う。ライブ録音とのことだが、実にコントロールされた素晴らしいドライブ感。当時のモスクワ放送響というか、ソ連オケのトランペットの醍醐味が味わえる。録音状態は良くはないが、前述のソ連系の響きを味わうにはむしろこれでいいのではないか。素晴らしく魅力的な一枚であり、祝典序曲のエネルギーに元気がもらえる。ロンドン響とのライブ盤も本当に素晴らしく甲乙付け難いが、やはりこのソ連サウンドを聴きたいので、こちらを推すべきか。祝典序曲は、スタジオ盤ならヤルヴィ、ライブ盤ならロジェヴェン。

ロジェストヴェンスキー指揮/ロンドン交響楽団

1985.07.08/Live BBC

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ロジェストヴェンスキーのロンドン響とのライブ盤。ロジェヴェンの祝典序曲はモスクワ放送響盤で既に完成されているのだが、このロンドン響盤を聴いて思うことの一つは、やはり祝典序曲の主役は大太鼓だよな、ということ。ラッパのファンファーレも格好良いし、クラリネットもいい。バランスの良い管弦楽曲として全ての楽器に見せ所があるが、練習番号30からの大太鼓の比類なき格好良さよ。間違いなくソリスト。このような魂の込め方ができるショスタコ曲、やはり好きだなと思う。例によって、最後は曲が終わるか終わらないかというところで拍手の嵐。演奏も熱狂的なら客も熱狂的。ライヴの醍醐味とはこういうことを言うんですなあ。

M.ショスタコーヴィチ指揮/ロンドン交響楽団

1990.01.04-06 Collins

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ショスタコーヴィチの実子マクシム、当時のソ連のオーケストラの響きを継承しつつ、現代的なアプローチが興味深く、いずれのディスクも大変興味深い。交響曲全集はじめ、ショスタコーヴィチの録音は素晴らしいものが多数残されているが、このロンドン響との祝典序曲はマクシムを凝縮したような面白さを味わえる。スタジオ録音盤だがスリリングな展開で、抜群のドライブ感と、押し出すような管楽器の鳴りが素晴らしくて、個人的な事情から言えば、吹奏楽部でド根性な生活を送っていた頃を思い出させるような、押しの強い演奏に心を持っていかれる。骨太な打楽器群の大活躍にブラボーと言いたい。当サイトのレビューではヤルヴィを一番上に置いているものの、マクシムが一番上だっていいし、好みの問題だとは思うが、ヤルヴィ、ロジェヴェン、マクシム、この三者で祝典序曲は語れるんじゃないか、と思う。

ムラヴィンスキー指揮/レニングラード・フィルハーモニー交響楽団

1955.04.21/Live Russian Disc

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ムラヴィンスキーは2度、この祝典序曲を取り上げたようだが、その貴重な録音の一枚。1955年4月21日ライブとある。天羽健三氏のコンサート・リスティングによると、1955年2月23日、1956年10月17日に祝典序曲の演奏記録があるが、当盤との関係はわからない。祝典序曲はショスタコーヴィチの有名曲の一つだが、ムラヴィンスキーが取り上げた機会は少なかったようだ。非常に貴重な録音である。録音状態はあくまでヒストリカルとして、現代のCDでの聴き比べに耐えられるものではない。しかしながら、まるで交響曲の10番か11番かのような真摯な演奏には心を打たれる。序曲としての演奏効果よりも、よりシンフォニックで、同氏によるショスタコーヴィチの作品世界につながる真剣さが感じられる名演。

スヴェトラーノフ指揮/ソビエト国立交響楽団

1978 Venezia

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長らくLPのみでCD化されていなかったスヴェトラーノフの祝典序曲を、ヴェネツィアが交響曲第1番、5番、6番、7番、9番、森の歌と共に4枚組のBOXで復刻。スヴェトラーノフらしい爆発力ある演奏で、それにしても速い。サーカスのような目まぐるしい超快速テンポはこの時期のスヴェトラーノフならではだろう。金管の鳴りも凄まじく、これぞ爆演。92年盤に聴かれるようなファンファーレの重さ、フィナーレの溜めは当時から健在で、スヴェトラーノフの解釈はそう変わっていないように思う。録音は良くない。高音は耳が痛いほどだが、低音がまるで鳴らない。演奏自体は凄まじいのだが、その魅力を伝えられるような録音ではないことは確かだ。低音が鳴らないので大太鼓の存在感はないが、表打ち。キャニオンによる92年盤は申し分ない録音だが、それでも当盤の荒々しい演奏は十分に魅力的である。突出するトランペットとトライアングルの金属的な響きは他に代え難い。ジャケットのショスタコーヴィチとスヴェトラーノフの写真も魅力的だ。

スヴェトラーノフ指揮/ロシア国立交響楽団,ボリショイ劇場管弦楽団金管セクション

1992.06.15-16 Canyon

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ロシア国立響の豪快な響きにボリショイ劇場管の金管が加わって、これ以上ない贅沢な鳴りっぷり。江崎氏によるキャニオンの優秀録音(後のエクストン)で、表情豊かで伸びやかなスヴェトラーノフらしい演出を再現してくれている。冒頭ファンファーレの極端な遅さ、重厚さがとてもドラマチックで、この演奏が示そうとする音楽性が伝わってくる。重いテンポで溜め込んだエネルギーが一気に爆発する様は、素晴らしいのひと言。もし自分が奏者の側ならば、ぜひこうした演奏を楽しみたいもの。なお、祝典序曲は大太鼓が主役級に格好良い曲なのだが、ここに「大太鼓裏打ち問題」がある。練習番号30からのポコ・メノ・モッソ、ファンファーレの再現後、31から3/2拍子の2拍目を豪快にフォルテシモで打ち鳴らすわけだが、その3小節目が裏拍になる(はず)。しかしながら、録音によっては裏拍にしない。これが版違いなのか、間違いなのか、解釈なのかがわからない。これが「大太鼓裏打ち問題」である。このスヴェトラーノフ盤は裏打ちしない。さすがにここまで遅いテンポなので、裏打ちせずに2拍目表打ちのほうが重さと迫力という点ではいいだろう(基本的に私は裏打ち支持者である)。さて、エクストンがリマスタしたSACD盤が出ているので、今から入手するなら断然そちらだろう。

チェクナヴォリアン指揮/アルメニア・フィルハーモニー管弦楽団

録音年不詳 ASV

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ショスタコーヴィチの管弦楽曲作品の中では比較的録音の多い祝典序曲。そうなると平均的な演奏よりも個性的な演奏を聴きたくなるものだが、チェクナヴォリアンはまさに「チェクナヴォリアンってこうだよね」というサウンドを届けてくれる個性的な魅力にあふれる指揮者。チェクナヴォリアンの魅力なのか?アルメニア・フィルの魅力なのか?いや、その両方、相乗効果がこの独特のサウンドを生み出すのだろう。ASVに録音したハチャトゥリアンの青い背表紙のCDが我が家にもずらりと並んでいるが、元祖原色サウンドの雄、堂々たる快演である。このCDは収録順に、ルスラン、はげ山、だったん人、中央アジア、エフゲニー・オネーギンのワルツとポロネーゼ、ロメジュリ序曲、祝典序曲、という8曲。もう本当に素晴らしい選曲です。約70分間、このロシア名曲集に浸る幸せは他に代え難く、高校生の頃からこのジャンルに心奪われてきた身としては、幸せな時間。これはもうエンドレスで聴いてしまう。アルメニア・フィルは技術的には不安定で粗が目立つのだが、ところどころで瑕疵はありつつもエネルギーが凝縮されたような濃密なサウンドが魅力的で、摩擦熱で火が出るんじゃないかというような弦楽器や限界突破の管楽器、「俺たちに任せろ!」と言わんばかりの頼もしい打楽器が我々を虜にする。「大太鼓裏打ち問題」は裏打ち。しかも裏打ちの次の小節もなぜか裏打ち2発。初めてのパターン。CDには録音年の記載がないが、指揮者の経歴等から80年代後半から90年代半ばのものと思われる。録音状態がとても良いかと言えばそうでもないが、ASVのギラギラした録音は全く悪いものではない。

クチャル指揮/ウクライナ国立交響楽団

2001.06.01-08 Brilliant

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クチャルの管弦楽曲集は素晴らしいBOX。スネアの率先するクレッシェンドが面白い。やはりクチャルのテンポ感や躍動するリズミックな演奏が素晴らしく、わずか1週間で録音されたこのBOXの魅力は語りきれない。「ボルト」や「馬あぶ」という名演と共に、3枚組の隅々まで楽しみたい。「大太鼓裏打ち問題」は表打ち。ところで、ウクライナはキエフを首都とした旧ソ連の構成国の一つで、意外と面積の大きな国。オーケストラの表記は慣例で「国立」としたが、Nationalを国立と訳すのは悩ましい。「国や国民を代表するような」といった感じの意気込み程度のこともあれば「国有の」といった場合もある。ロストロポーヴィチのナショナル響は、「ワシントン国立響」になってしまうと違和感があるし、ヤルヴィのスコティッシュも「スコットランド国立響」というのもどうもな…。旧ソ連からのオーケストラ名の改称はもはや付いていけず、こうした表記問題を詳しく解説してくださる方がいるといいな、といつも思っている。

ネルソンス指揮/ボストン交響楽団

2017.04-05/Live Deutsche Grammophon

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ネルソンスとボストン響による交響曲全曲録音プロジェクトから。管弦楽曲をカップリングとした興味深いプロジェクトだが、祝典序曲も期待に違わない。大太鼓が食い気味なところがあってこれまでの安定感とは別の魅力もあるが、ネルソンスの表現の方向性が十分に伝わってくる好演。

テミルカーノフ指揮/サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団

1996.01.03-04 RCA/BMG

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交響曲の1番と5番との併録で知られていた録音だが、当盤はRCAの「露西亜巨匠指揮者の芸術」シリーズからの一枚。日本語解説付きの2枚組で、ファンとしては嬉しい。テミルカーノフは素晴らしい録音が多数あり、ソビエト時代も、ロシア時代も、魅力的な指揮者の一人。この祝典序曲は十分に管楽器が鳴る演奏であり、かなりの快速テンポにもかかわらずコントロールが行き届いたわくわくするような名演。もっと昔のテミルカーノフの演奏も聴いてみたい。「大太鼓裏打ち問題」は表打ち。

アシュケナージ指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1990.09 Decca

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ロイヤル・フィルの煌びやかな響きが素晴らしいアシュケナージ盤。大太鼓が好演。オーケストラの実力が如何なく発揮されており、速めのテンポの中で充実した響きを味わうことができる。

アシュケナージ指揮/フィルハーモニア管弦楽団

2001.07.27 Exton

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ロイヤル・フィルとの旧盤と比して解釈の違いはないように聴こえる。大太鼓は裏打ち。オーディオからはエクストンのライブ録音に聴かれる現代的な響きが再生されるが、大太鼓やティンパニの下のほうの色はその深さゆえにヘッドの打撃音の迫力がなく、これは必ずしも効果的とは思えない。フィルハーモニア管は個人的にはかなり好きなオーケストラの一つだが、これといった特徴のない仕上がりになっている。

マッケラス指揮/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1994.07 Tring

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ロイヤル・フィルのCDは廉価盤の定番としてなぜか入手しやすいが、駅前ワゴン売り、書籍の付録、廉価コレクションセットのような中に潜むこの名演。メリハリの効いた気持ちの良い演奏であり、各セクションの鳴りっぷりが素晴らしい。レーベル名が判然としないCDも多いが、RPOブランドによるSACDで出ているので、今から入手するばらばそちらを架蔵すべきだろう。

ムーティ指揮/フィラデルフィア管弦楽団

1992.04 EMI

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ムーティのショスタコーヴィチはイメージが湧きにくいが、意外なところで録音がある。安心して聴けるフィラデルフィア管の豪快なサウンドと、コントロールされた指揮によって実に手堅い硬質な一枚になっている。祝典序曲のスタンダードな一枚と言えるだろう。

アンチェル指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

1964 Supraphon

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チェコ・フィルは、ムラヴィンスキーが客演した数少ない海外オケの一つだが、ショスタコーヴィチでも多数の名盤がある。やや地味なサウンドながら、その持ち味が十分に魅力的であり、これは他では聴けない。つい「チェコ・フィルっていいよね」と口ずさむ。

プレートル指揮/フィルハーモニア管弦楽団

1963 Tower Records/EMI

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12番と併録の祝典序曲。12番が実に個性的な解釈(特に終楽章コーダ)であったのに対して、祝典序曲はあっさりとした演奏。録音の古さもあるのか荒っぽく骨太なサウンドだが、強奏部などはダイナミックな感動がほしいところ。

コステラネッツ指揮/コロンビア交響楽団

1977.01.17-18 Sony

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練習番号3-4,26-33をカットしての演奏。カットしているのでわざわざ推薦盤として挙げるのもどうかとは思ったものの、当盤の収録のバレエ組曲(という表記だが実際には映画音楽なども織り込んだコステラネッツ編の軽音楽セレクション)と同様にコステラネッツの軽妙な味付けが面白く、ぜひ聴いてもらいたい一枚なのである。

リンドン=ジー指揮/ニュージーランド交響楽団

1994.11.02-04 Naxos

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併録されている「黄金時代」が素晴らしいこのディスク。祝典序曲はどこか冴えないが、オーケストラに無理はなく力の抜けたリラックスした演奏。相変わらず大味なスネアが良い。そしてシンバルが(吊りシンバルまで)多数追加されている。

ガウク指揮/モスクワ放送交響楽団

1955.09.24/Live Russia Revelation

ガウクによる録音。録音状態を考えれば資料的なディスクというところだが、それでもこの曲の表現方法を鮮烈に表しており、魅力あふれる録音。テンポ設定やダイナミクスが、同曲の完成形を表している。ガウクの示したショスタコーヴィチ演奏を味わうことができる一枚。当時の客席にいられなかった者としては、貴重な録音だ。

ハンスバーガー指揮/イーストマン・ウインド・アンサンブル

1990.06.08-13/Live Sony

指揮者による吹奏楽編曲版。我が青春の一枚。当時、町田のTaharaで高校生の少ない小遣いで入手したディスクであり、何度繰り返し聴いたことかわからない。音盤との出会いが、かくも自らの人生に影響を与えるものか。併録は、ホルストの第一組曲、私が何かしらの目覚めを経験したシュワントナーの「…そしてどこにも山の姿はない」、グレインジャーの「リンカーンシャーの花束」と、語り尽くせない魅力と体験がこの一枚にある。17歳でこのディスクに出会った少年が、どれほどの感動を得たことか。