ステージ・オーケストラのための組曲(ジャズ・オーケストラのための組曲第2番)

長らくジャズ組曲第2番として知られてきた、映画音楽やバレエ音楽などを集めた8曲から成る組曲は、現在では「ステージ・オーケストラのための組曲」と名称を改めて紹介されるようになった。本項ではこれを紹介する。一方、3曲から成る本来のジャズ組曲第2番は、1938年11月28日にソビエト国立ジャズ楽団によって初演されたというデータがあるが、スコアは紛失したとされる。ピアノ・スコアを未完の歌劇「オランゴ」や劇音楽「約束どおり殺された」で知られるマクバニーが編曲し、2000年に発表されている。

キタエンコ指揮/フランクフルト放送交響楽団

1995.03.06-08 RCA/BMG

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全曲版。キューブリックの映画『アイズ・ワイド・シャット』は学生時代に封切で観たが、劇場で聴くショスタコーヴィチの音楽には感動したものだ。ジャズ組曲2番の第2ワルツは、映画によって知名度を大きく引き上げたに違いない。ショスタコーヴィチの代表的なワルツで、度々アレンジを変えてジャズ組1番など他の曲にも登場するものの、やはりジャズ組2番の第2ワルツが煌めきがあっていいだろう。1番の退廃的な雰囲気も好きだが。この曲の魅力は、まるでディズニーランドのような、ごった煮だがコンセプトに筋の通った華やかでわちゃわちゃと賑やかな曲想だ。多彩な打楽器をはじめ、サックス、アコーディオン、ギター、ピアノといった楽器が活躍するとても豪華な大編成。この華やかなオーケストラは、まさに「ソ連のディズニーランド」とでも言いたくなる。キタエンコ盤は手堅く丁寧にまとめられた演奏で、オーケストラも録音も素晴らしい。交響曲を聴くようなオーケストラのサウンド、録音とは異なり、主役楽器にフォーカスされてポップス音楽を聴くような楽しさがある。低音のリズムや、サックスの太い音色が電子楽器のような響きをもたらし、木琴やアコーディオンのアナログな音色はしっかりと抜けてくる。同様のコンセプトで録音された、併録のバレエ組曲1番・3番、ジャズ組曲1番も素晴らしく、チープさの魅力とはまた対極にある華やかな演奏だ。

クチャル指揮/ウクライナ国立交響楽団

2001.06.01-08 Brilliant

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全曲版。オーケストラの技術的な実力としては、世界の名門には敵わないものの、その熱量と軽妙なサウンドが素晴らしいクチャルの管弦楽選集から。同時期にまとめて録音されているので、いずれも同質なサウンド。軽くて薄めだが、キレ味、スピード感、熱量が名門オケを圧倒するような迫力がある。ジャズ組2番は寄せ集めの音楽ではあるものの、第1曲(コルジンキナから)のマーチや、終曲のワクワク感は他に代え難い。

井上道義指揮/新日本フィルハーモニー交響楽団

2021.07.03/Live Exton

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抜粋版(行進曲、抒情的ワルツ、小さなポルカ、ワルツ2番、ダンス1番)。2021年、コロナ禍における交響曲第8番とのライブ録音。抜粋なので全曲を聴くことができないのは残念だが(個人的には、フィナーレは外せないのではないかと)、井上道義自ら「今日は思い残すことはない」という充実の演奏。アコーディオンの存在感が立派なもので、新日フィルの公式動画を観るとオケの中心で優雅に奏でている様子が見られる。この曲は映像で観るとやはり面白い。井上道義の棒に応えるオーケストラのノリノリな様子が素晴らしい。アコーディオンにサックス、多数の鍵盤楽器など、一般にクラシック音楽では鳴らない音が聴こえてくるが、1950年代のソ連の流行やショスタコーヴィチのポピュラー音楽へのアプローチも見て取れるもので、興味深い。タンバリンはじめ打楽器が好演。

スローン指揮/ベルリン放送交響楽団

2004.09.28-10.02 Capriccio

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底の深いどっしりとした録音で、SACDの高音質で聴くことができるが、併録された他の曲も含めて「どうも違和感のある高音質」というのが、この曲にもっと場末感を求めたい聴き手には正直な感想か。手堅い演奏でオーケストラも良い。余裕のある響きを聴くことができる。サックスの野太い響きも素晴らしい。実に壮大で豪華な仕上がり。ワルツはとてもお洒落だし、こうしたサウンドで聴くこの曲も味わい深い。スネアとタンバリンの置き換えはしばしば起こるが、ダンス1番はタンバリン主体で聴きたいので、これは残念なところ。

シャイー指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

1981.04-05 Decca

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全曲版。シャイーの「ジャズ・アルバム」から。明るいサウンドが何とも魅力的な一枚。ショスタコーヴィチのオーケストラ曲に聴き慣れた耳だとどうもこの明るさやアクセントの付け方に違和感を覚えるが、技術的に素晴らしい演奏であることは間違いなく、81年にこのような演奏を残しているシャイーの着眼点は実に多彩で多様。

ヤブロンスキー指揮/ロシア国立交響楽団

2001.10 Naxos

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全曲版。全体的には決して悪くはなく、手軽に聴くことのできる一枚なのだが、標準的な演奏であることに加えて特段のこだわりも感じられず、推薦度はたこさん三つながら貴重な全曲録音なので紹介しておく。オケはスヴェトラーノフの国立響。キレ味の鈍い野暮ったい演奏で、あのロシア国立響が10年もたてばすっかりサウンドの質が変わってしまうことに無念さを覚える。