映画音楽「女ひとり」作品26

フィッツ=ジェラルド指揮/hr交響楽団

2006.11.29,12.01(一部Live) Naxos

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全曲版(映画未使用曲2曲を含む)。遺失スコアをフィッツ=ジェラルドの執念で復元させた完全版の録音。構成は、序曲、リール1:レニングラードのクズミナ(8曲)、リール2:クズミナは教師として参加する、彼女の決意と葛藤(7曲)、リール3:クズミナはひとりアルタイに到着する(6曲)、リール4:クズミナは地元の生徒たちに教え始める(9曲)、リール5:クズミナは羊と一緒に野外で授業をする(5曲)、リール6:雪山に置き去りにされクズミナは殺されかける(5曲)、リール7:飛行機によるクズミナの救出(7曲)の計48曲。ソ連初のトーキー映画とのことだが、セリフが収録されたわけではなく、あとから音楽を足したもの。この曲にテルミンが使われることはよく知られているが(吹雪の場面)、この完全版を聴くと、どこまでショスタコーヴィチ自身による作曲であるかは不明なものの、リール3の1曲目にホーミー(喉歌)が登場するなど、舞台となるアルタイの伝統的な音楽を取り入れていることがわかる。各曲1-2分程度の短い部分的な音楽だが、3管フル編成のオケと独唱、合唱付きの大掛かりな曲であり、音響的な面白さを味わうことができる。ショスタコーヴィチにとっては「新バビロン」に続く2作目の映画音楽だが、挑戦的な内容である。いかにもショスタコーヴィチらしいリール1の行進曲「通り」やギャロップと歌「人生はどれほど良いものになるのでしょう!」(スネアのタッタカリズムが良い!)の他、リール2の1曲目「事務所のタイプライター」でスネアにタイプライターのイメージ音を叩かせたり、後半の重苦しい環境音、効果音的な音楽も聴くことができる。(フランクフルト放送響といったほうが馴染み深い)hr交響楽団のサウンド、技術、録音も申し分なく、引き締まったテンポでエネルギーにあふれ、派手に鳴るオケに魅せられる。「女ひとり」の決定盤と言って差し支えないだろう。キラキラと光るトライアングル、カッチリした硬質な音色と確かなリズムのスネア、輪郭のはっきりした大太鼓と、打楽器も素晴らしい。

ムニャツァカノフ指揮/ベラルーシ放送交響楽団

1995.11 Delos

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全曲版から。ユロフスキー盤と同じ編曲による全曲版だが、リール4「思い出の歌」、リール6「吹雪の始まり」、リール7「クズミナと子供たち」、「悪夢」が未収録。速い曲は速く、遅い曲は遅く。はっきりしたテンポ感が心地良く、とてもわかりやすくエンターテイメントに仕上がっている。95年の録音だが、当時ものかと思うような古いサウンドも素晴らしく、サクサクと決まるスネア、この曲の全編で活躍するダブルリード楽器の雰囲気もばっちりだ(コントラファゴットがぶーんと鳴ってオーボエがぷい~んと鳴る。これが「女ひとり」のアルタイ世界!)。「クズミナの小屋」では電子オルガンの音色がはっきりと聴こえる(フィッツ=ジェラルド盤にはない)。「女ひとり」はロジェヴェン組曲に代表されるような明るく軽快な曲、シャイー盤で有名になったテルミンの吹雪などが知られているが、実のところその魅力はリール3やダブルリードに集中しているのではないか。

シャイー指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

1998.05.6,19,22 Decca

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行進曲「通り」、ギャロップ(テナーはトランペットに置き換え)、「アルタイ」、「吹雪の始まり」など、要所で印象的な11曲を収めた20分ほどの抜粋。コンセルトヘボウの華麗な響きが素晴らしく、ショスタコーヴィチ初期の映画音楽に聴かれるような耳に痛いキツイ音楽ではなく、まろやかで美しい。「通り」とギャロップが華やかで良い。テルミンがオーケストラに混ざったときにどのようなバランスで聴こえるものなのかまるでわからないが、この録音ではかなり前面に出てくるので何やら異質な感じで恐ろしい。

ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立文化省交響楽団

1982 BMG/Melodiya

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ロジェストヴェンスキー編曲による組曲版。全編から抜粋しつつ3曲(パート1、パート2、パート3)にまとめている。ストーリーごとのまとまりではなく、音楽的な流れやつながりから抜粋したものと思われる。ライトな曲が中心で聴きやすい。ロジェヴェンのショスタコーヴィチ初期の薄くてソリスティックな小品へのアプローチと同じく、遊び心ある可愛らしくもソビ文なサウンドが魅力的な演奏。

シナイスキー指揮/BBCフィルハーモニック

2002.05.16-17 Chandos

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抜粋7曲。曲順はバラバラで、「アルタイ」に始まりギャロップに終わる。「通り」や「吹雪」は含まれておらず、ややマイナーな選曲。シナイスキーの映画音楽集は3枚とも演奏は素晴らしいが、選曲や抜粋は十分ではない。ここまでやってなぜ入れないのか、という。ディスクいっぱいに収録しているので時間の問題もあるのでしょうけれど。演奏はさすがで、中身の詰まった密度の高い重量感のあるサウンドが素晴らしい。このサウンドで「女ひとり」を聴くことができるとは。しかしこの曲にはもっと魅力的な抜粋方法があったはずだ。

ユロフスキー指揮/ベルリン放送交響楽団

1995.09.19-22 Capriccio

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全曲版。フィッツ=ジェラルド盤以前はユロフスキー盤が最も多くの曲を収録していた。この曲を世に届けてくれた功績は大きい。ユロフスキーの安定感あるいつものサウンド。安定していて破綻なく整っている。しかしアレグロなどの速いパートがことごとく遅い。この遅さはムニャツァカノフ盤で聴かれたようなわくわく感は得られない。電子オルガン(クズミナの小屋)、テルミン(吹雪の始まり)も聴くことができる。