映画音楽「司祭とその下男バルダの物語」作品36

ロジェストヴェンスキー指揮/ソビエト国立交響楽団

1979 BMG/Melodiya

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アニメーション「司祭とその下男バルダの物語」の音楽。我が国のアニメ事情とは全く異なる当時ソ連のアニメがどのようなものだったのかはわからないが、インターネットで収集できる情報、戦争によって失われたフィルムの残存部分を確認するに、相当にトラウマな絵柄で、支配階級への風刺が効いているようだ。司祭という支配者に対してのバルダのある種の不気味さや、妻や娘の立ち位置も面白く、制作者たちのクリエーティブな姿勢が伺える。アニメ自体は制作中止となってしまったが、ロジェストヴェンスキーが組曲に編曲している(序曲・反啓蒙主義者たちの行進・回転木馬・市場・司祭の娘の夢・終曲)。やはり私はロジェストヴェンスキー盤が好みである。オーケストラはソビエト国立響との表記。この曲を聴くに私が楽しみなのは第5曲「司祭の娘の夢」なのだが、サックスのソロ曲の伴奏に聴き入ってしまう。残念ながらスコア(原曲もロジェヴェン版も)を見たことがないので、何とも言い難いが、この伴奏の弦楽器(ハープなのか、録音によってはギターかベースか。個人的にはエレキベースが最も合うのではないかと)が素晴らしい。「バルダの司祭の娘の夢の伴奏」というキーワードで、ぜひ語り合いたい一曲である。それにしてもこのチープな場末感と、それにしては確かな技術に裏打ちされたオーケストラ、そしてソ連特有のサウンドを持ち合わせたロジェヴェンの管弦楽曲集は魅力的であることこの上ない。そもそもソ連オケでサックスを聴いたりすることが少ないのだが、サックスをはじめとした木管楽器の用法はとても魅力的で、このバルダももっと知られてほしい一曲。

ムニャツァカノフ指揮/国立キネマトグラフィ管弦楽団

1997.02 Delos

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オーケストラ表記は英語で「State Cinematographic Orchestra」となっており、国名が含まれていないが、ミンスクでの録音なのでベラルーシの映画専門オーケストラと思われる。密度の濃い演奏で、同曲のベスト盤の一つに違いない。ハッキリしたテンポ感と管楽器のアーティキレーションが魅力的。メリハリの効いた演奏は素晴らしく、好みによって同曲のベスト盤はロジェヴェンかムニャツァカノフかというところかと思える。このムニャツァカノフのディスクは「黄金の山脈」、「コルジンキナの冒険」、「愚かな子ネズミ」を収めており、いずれも魅力的。ショスタコーヴィチの映画音楽集として必聴の一枚であると言える。

T.ザンデルリンク指揮/ロシア・フィルハーモニー管弦楽団

2005.05-06 Delos

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バルダ全曲再現というプロジェクトは素晴らしい。これまで細切れに聴いていた同曲の新たな魅力に気付くことができる一枚。ロシア・フィルのサウンドも素晴らしい。録音も良いので、バルダ・ファンには待ち焦がれた演奏であろう。

キタエンコ指揮/MDR交響楽団

2005.05.17-20 Capriccio

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意外と録音のあるバルダだが、キタエンコの管弦楽曲集に収められており、SACDによる素晴らしい音響を味わえる。ロジェストヴェンスキーやムニャツァカノフのロシア風のアクの強い演奏とは異なるが、丁寧な演奏はオーディオ機器の力によっても補われて、オーケストレーションの妙を味わうことができる。MDR交響楽団は、ライプツィヒ放送交響楽団の東西ドイツ統一による放送局統合後の名称。