ヴァイオリン協奏曲第2番 嬰ハ短調 作品129

ロジェストヴェンスキー指揮/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

オイストラフ(Vn)

1968.09.27/Live Brilliant

('◎')('◎')('◎')('◎')('◎')

Vn協2番の名盤を選ぼうというときに、まずは御三家として、独奏が全てオイストラフ、指揮がロジェストヴェンスキー、コンドラシン、スヴェトラーノフによる3枚を挙げることにした。このロジェストヴェンスキー盤は、長らく入手困難だったLPをブリリアントが復刻してくれた貴重な音盤。協奏曲全集となっており、Pf協はベルグルント、Vn協はムラヴィンスキーとロジェスヴェンスキー、Vc協はポリャンスキー。Vn協はオイストラフの名盤の一つで、この曲の真骨頂を聴くことができる。ライブゆえの瑕もあるのだが、圧倒的な迫力と鬼気迫る熱演は、オイストラフとロジェヴェンならではのもの。この組み合わせに期待するものを聴くことができる。ティンパニとトム・トムの割れた響きが凄まじい。ティンパニ、という楽器から多くの人が想像する音色を遥かに超えてくる打撃音。そして、片張りまたはロート・トムのような薄っぺらいトムの衝撃的な打撃音が素晴らしく、これだ!と思わさせる。個人的な好みから言えば、この曲には優秀録音で深みのあるトムとティンパニによる音響効果抜群の伴奏を期待するところだが、それは後年のスラドコフスキーやアンドリュー・デイヴィスで聴くことにして、さすが当時ソ連の演奏の超強烈な音色。凄まじいことこの上ない。2-3楽章で一つのトラックになっているのは不便。

コンドラシン指揮/モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

オイストラフ(Vn)

1968 Melodiya

('◎')('◎')('◎')('◎')('◎')

デッドな録音でゴリゴリと力強い音で聴かせるオイストラフのソロに、伴奏はコンドラシンとモスクワ・フィル。この組み合わせに期待するものに全て応えてくれる。スタジオ録音だが、この時代のソ連の録音に特有の鋭く乾いた響きまで含めて、説得力に満ちており、かくあるべしという理想的な演奏になっている。オイストラフのこのサウンドは録音にもよるのだろうが、現代では聴くことのできない音色で、これこそショスタコーヴィチの協奏曲だと思わされる。静謐で研ぎ澄まされた狂気。ヴァイオリン協奏曲の頂点に位置する名盤。打楽器はいずれも強烈な音である。もはや当然のようにバランスが悪い。音が平然と割れるティンパニ、ピッチが高くスネアオフのようなトム。すっかり聴き慣れてしまってしまっているので、もはやこういう曲なのだと思っている。

スヴェトラーノフ指揮/ソビエト国立交響楽団

オイストラフ(Vn)

1968.08.22/Live BBC

('◎')('◎')('◎')('◎')('◎')

偶然にも全て1968年の録音だが、ショスタコーヴィチのVn協2番御三家の3枚目は、スヴェトラーノフのライブ。いかにもスヴェトラーノフらしい勢いで畳み掛けるような演奏で、オイストラフの神業的ソロが精緻を極めており素晴らしい。録音状態には難があるが、緊張感が一切途切れることなく張り詰めた演奏。

スラドコフスキー指揮/タタールスタン国立交響楽団

ミリューコフ(Vn)

2016 Melodiya

('◎')('◎')('◎')('◎')('◎')

スラドコフスキーという指揮者との出会いは、このショスタコーヴィチ協奏曲全集であったが、正直に申し上げれば、それまでは聴いたことがなかった。スラドコフスキーも、タタールスタン国立響も。タタールスタンがソビエト連邦の構成国ということはわかるものの、2016年、ショスタコーヴィチ生誕110周年のこの年に交響曲全曲、協奏曲全曲をセッション録音したとは!!しかもメロディヤ!録音データには2016としかないので、詳細は不明だが、これはとてもセンセーショナルな出来事だと思われる。協奏曲全集のソリストはそれぞれ異なり6名、チャイコフスキー国際コンクールの入賞者とのこと。若手の起用は素晴らしい。Vn協2番は、オイストラフがロジェヴェン、コンドラシン、スヴェトラーノフとそれぞれ名盤を残しており、当時のエネルギーに満ちた他に代え難い感動があるが、現代の若手奏者による演奏も好きだ。Vn協2番は、交響曲13番と14番の間、協奏曲では最後の作品。ショスタコーヴィチ晩年の傑作であるが、現代的な響きが似合うのかもしれない。旧ソビエト勢の演奏家たちによる灰汁の強さはないものの、当盤のソリストとオーケストラのバランスが私の好みにぴったりで、やはりトム・トムが素晴らしい。ロジェヴェン盤のような爆裂感はないが、その存在感は圧倒的だ。絶妙なバランスでヴァイオリンとティンパニ、トム・トムが掛け合う様は、まさに感動体験である。質の良いセッション録音で、同じ指揮者とオーケストラが短い期間で撮った6曲の協奏曲全集、という点でも価値が高い。6曲を作曲順に聴いてみても面白い。いや、むしろスラドコフスキーの交響曲全集も混ぜて、15+6曲を全て作曲順に聴いてもよいか。こうした体験はスラドコススキーでしかできないだろう。

A.デイヴィス指揮/BBC交響楽団

シトコヴェツキー(Vn)

1990 Virgin

('◎')('◎')('◎')('◎')('◎')

全体のバランスに秀でており、各楽器の機能性が優れた一枚。随所に強烈なアクセントが映えるが、危なっかしいところもなく、この難曲を無理なくストレートに聴かせる。ソロについては当ページで推薦する他のソリストのようなアクの強さはないが、見事な名人芸で思わず聞き入る。そして、何と言ってもトム・トムである。コンサート・トムのお手本のよう。ティンパニとの音色の兼ね合いも素晴らしい。この二つの打楽器のバランスが絶妙である。

ケーゲル指揮/シュターツカペレ・ドレスデン

トレチャコフ(Vn)

1969.10.10/Live Weitblick

('◎')('◎')('◎')('◎')

ケーゲルの残したショスタコーヴィチの交響曲へのアプローチそのままに、凄まじい緊張感のVn協2番。録音状態は良いとは言えないが、そのシリアスさはビシビシと突き刺さるように伝わってくる。ライブだが演奏上の瑕疵は気にならない。2楽章の深淵な響きは、まるで「ホヴァンシチナ」の前奏曲を思わせるような美しさ。この世界観に吸い込まれる。この曲は、安定よりは不安を感じさせるが、全体的にリズム感が抜群で、乱れることがない。3楽章は打楽器の乱打が魅力的な曲ではあるものの、ケーゲルの真っ直ぐな真面目さは、決してこの曲を派手に聴かせることはない。