バレエ音楽「明るい小川」作品39/39a

バレエ組曲は、1番から3番までがショスタコーヴィチ自身がバレエ音楽「明るい小川」を中心にバレエ音楽や映画音楽から抽出したものを、アトヴミャーンが再編集しており、今日では「明るい小川」と言えばバレエ組曲版で聴く機会が多い。第4番はショスタコーヴィチは関わっておらず、アトヴミャーンによる編集とされる。組曲の半数を「明るい小川」から引用しており(正規の「明るい小川」組曲に収められている曲も、編曲の違いはあるが全てカバーできている)、相関図をこちらにメモとして記載した。

ロジェストヴェンスキー指揮/ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団

1995.06.09-14 Brilliant

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ロジェストヴェンスキー編纂による「ほぼ全曲版」。繰り返しと「ボルト」からの転用をカットしているとのこと。事実上の全曲を聴くことができるので資料的にも価値が高いが、演奏も実に充実しており、「明るい小川」については当盤を基本として聴くのがよかろうと思う。「明るい小川」は多くの曲がバレエ組曲などに組み込まれているが、こうしてアレンジの違う原曲を聴く楽しみもある。バレエ組曲を聴き慣れていると違和感もあるが、第15曲(組曲2番の終曲)などはよりショスタコーヴィチらしい暗さも同時に感じることができる。確実な手腕を持ったオーケストラと、見事に全体像を築き上げてコントロールしてみせるロジェストヴェンスキーの指揮はやはり素晴らしい。ロジェヴェンがロシアでも英米でもなく北欧のオケを振ると、このようなまとまり方をするのか…、と美しいサウンドに溜息が出る。

クチャル指揮/ウクライナ国立交響楽団

2001.06.01-08 Brilliant

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ご存知のとおり「明るい小川」はバレエ組曲に編曲されており、この正規の「明るい小川」組曲の5曲もそれぞれがバレエ組曲に散りばめられている。「明るい小川」組曲としてこの5曲を聴く機会が珍しい。クチャルの管弦楽曲集に収められたこの録音は、「録音は少ないがいずれも名演」というショスタコーヴィチのバレエ音楽にあって、それらに追随する一枚。ジャズ組曲から始まるこの3枚組ディスクの価値を一層高めている。

バレエ組曲第1-4番

E.ハチャトゥリアン指揮/ソビエト国立交響楽団

1980 Venezia

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バレエ組曲第1-2番。どこか爽快感さえ得られるテンポで、心地良い。録音状態は当時のソ連らしいものだが、キリッと各楽器が際立って聴こえてきて、ショスタコーヴィチのバレエ音楽に求めたい切れ味の良いサウンドが表れている。残響の少ない録音だが、ピアノや打楽器の表現も素晴らしく、デッドな空間の中で濃密な音響を味わえる。特に2番の疾走感は他に代え難く、終曲のギャロップはこれを超えられる演奏には出会えないのではないか。ショスタコーヴィチの交響曲とは異なるジャンルでこれほどまでの魅力を伝えてくれるディスクはそうはないだろう。ショスタコーヴィチの音盤の中でも特筆すべき必聴の一枚である。そして、スネアはこうあるべき、という圧倒的な存在感と技術を聴かせてくれる。

M.ショスタコーヴィチ指揮/ボリショイ劇場管弦楽団

1966 BMG/Melodiya

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バレエ組曲第1-3番。まさにソ連のオーケストラらしいサウンドで、強烈かつ切れ味抜群の演奏。節操のない金管と大袈裟な弦楽器の歌い回しもマクシムらしい。残念ながら4番の録音がないが、この一枚でショスタコーヴィチのバレエ世界を楽しむことができる。やはり当時のソ連サウンド、ショスタコーヴィチのバレエ音楽の世界観がここにある。明るくはじけるような曲は言わずもがな、一方、湿っ気たっぷりなラッパの独奏などは涙が出てくる。日本人にとっては「昭和」な感じとでも言えばいいだろうか。

N.ヤルヴィ指揮/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

1988.05.12 Chandos

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バレエ組曲第4番。4番は録音が少なく貴重だが、ヤルヴィとスコティッシュが録音しており、これ以上のものを望めるだろうかというほどの素晴らしい演奏。かの名録音、交響曲第10番と併録されており、録音も同時期。素晴らしい切れ味で非の打ち所がない。感服する。 特にスケルツォ(「ボルト」第37曲「繊維工場の労働者たちの踊り」)は、これこそ我々が求めていたもの。そして、やはり「ボルト」は名曲揃いだ。ロジェストヴェンスキーの全曲版から聴くよりも、タンバリンの追加を筆頭に派手なアレンジがなされており面白い。

N.ヤルヴィ指揮/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

1988.02.22-26 Chandos

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バレエ組曲第1-3番。収録順は第1番・第3番・第2番となっており、コンサートのように三つの組曲を合わせて一枚のディスクとして楽しめる内容。2番のフィナーレはやはりバレエ組曲の白眉であろう。豊かなサウンドと優秀録音、ヤルヴィのリズム感が心地良い録音であり、文句なしに楽しめる。

キタエンコ指揮/フランクフルト放送交響楽団

1996.01.02-05 RCA/BMG

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バレエ組曲第1・3番。バレエ組曲はエミン・ハチャトゥリアン、マクシム、ヤルヴィらによる快速で弾けるような、時に危なっかしい演奏が魅力的である一方、キタエンコ盤は実に落ち着いた手堅い演奏で、また別の魅力を聴くことができる。まるでサントラ盤のような印象。録音も良く、フランクフルト放送響の豊かで美しいサウンドを味わうことができる。

ヤブロンスキー指揮/ロシア・フィルハーモニー管弦楽団

2003.05-06 Naxos

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バレエ組曲第1-4番全曲。1番から4番まで通しで聴くことのできる貴重な一枚。実に1時間。ショスタコのバレエ音楽に浸りたいという方には当盤がベストであろう。演奏も実に堅実。マクシムやエミン・ハチャトゥリアンのような振り切った表現はないものの、全曲を魅力的に紹介してくれる一枚である。ロシア・フィルは録音専門のオケとして立ち上げられたようだ。

アンドレ・コステラネッツ・アンド・オーケストラ

1965.11.23,29 Sony

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アンドレ・コステラネッツは、ロシア生まれの音楽家で、アメリカに亡命後、オーケストラによるポピュラー音楽で活躍したようだ。演奏者表記は、「Andre Kostelanetz & His Orchestra」。CDジャケットには「バレエ組曲第1-2番抜粋」とあるものの、これはもうコステラネッツ編曲版の「軽音楽組曲」と名付けたほうがいいのではないかという13曲(約35分)のセレクション。演奏会の中プロで聴くことができたらとても楽しいだろう。13曲の中には、喜歌劇「モスクワ市チェリョームシキ地区」から2曲、映画音楽「馬あぶ」から5曲が選ばれている。65年の録音ながら状態も良く、演奏も確かな技術に裏打ちされた素晴らしいもの。編曲もあってより軽音楽的な味付けが強まっており、ハッキリとしたリズム感が特徴的。スネアもオーケストラ用のコンサート・スネアというよりはドラム・セットの一部のような印象。しかしショスタコーヴィチのこうしたジャンルの音楽の面白さを伝えるには十分な内容であり、面白い。これはぜひ手元に置きたい一枚である。